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その後、私は彼の口添えもあって新たな事務所でマネージャー業務を続ける事になった。
練習生から昇格した彼はというと、アメリカ、韓国、日本の多国籍アイドルグループ“フォスヴェロス”、通称“光の矢”のビジュ担当に抜擢され、大掛かりなプロモーション活動で、寝る間もないほど動き回っていた。
「大丈夫? ちょっと無理してるよね」
雑誌、SNS、TVの収録に引っ張りだこの彼は、今やどこを出歩いても気を抜けない状態だ。ありがたい事ですと、口では連呼している彼だけれど、私には分かる。彼の光の力は確実に少しずつ少しずつ下がってきている。
自由と引き換えに莫大な富と名声を手に入れるのがアイドル。覚悟がなければあっという間に転落する。それが分かっているからこそ、無理をしてまで自分を奮いたたせているのだ。
ただ、それを易々と受け入れないのがこの私。だって、彼が光を失ってしまったら、いくらアイドルとして成功したって本末転倒だもの。光を失えば、どれだけ取り繕うがその先にあるのは虚しい闇だけ。それが分かっているから、絶対に無茶はさせない。
「ねぇ、ちょっと来て。裏から抜けるわよ」
「えっ?」
「あるあるでしょ。出待ち対策っ」
私は裏口に車を回すと、サクッと彼を拾い夜の道を走り出した。
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