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近づく闇
「よぉ、東屋。元気にしてたか」
「‼︎⁉︎」
車に乗り込もうとした瞬間、聞き覚えのある嫌な声がした。振り返るまでもない、元上司の声だ。
「どうしたんですか……。こんな朝早くに」
「まぁ、軽く朝飯でも食いながら話そうや」
「わ、私今から仕事があるので」
「ほぉ。ビジュ担のSOUTA君とのお仕事かな」
にんまり笑うその笑顔の裏に、妙な闇を感じる。ここは強気に行こう。私はもうアイドル殺しの異名なんて捨てたんだ。今やスーパーアイドルの敏腕マネージャー。何も恐れる事はない。
「そうですよっ、私、SOUTAのマネージャーなんでっ。あなたなんかよりうーんと見る目があったんで」
あの時門前払いした事を後悔すれば良い。そう思いながら車に乗り込もうとすると、奴はドアをこじ開けてきた。
「な、何ですか⁉︎」
「まぁカリカリするなよ東屋。ちょっとウチのアイドルとコラボなんてどう? それとっ、あの子契約年数どのくらいなの」
彼のポテンシャルを見抜けず失笑した癖に、彼がビッグチャンスを掴んだ途端に手のひら返し。しかも、契約年数を気にするなんて、そのうち私への今までの借りだなんだ上手い事言って、彼を移籍させるつもりに違いない。全く、こんな奴においしい思いさせてたまるか。
「あの、急いでるんでっ」
私は元上司の指をへし折る勢いでドアから引き剥がすと、これでもかとエンジンをふかしてやった。
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