1.ふたりの食卓

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『――帰宅時間に雨が降るでしょう。傘を忘れずに――』  いつの間にか天気予報が始まっていた。  というかもう終わりそうだ。 「――やべ」  俺は勢いよく立ち上がり、ジャケットとバッグを掴んでリビングを飛び出す。 「志雄くん!」  いつもの電車に遅れそうだ。  一本遅い電車に乗ると、駅から学校まで走らなきゃいけなくなる。  だから、振り返らなかった。 「待って――」 「――行ってきます!」  背中でバタンッとドアが閉まる音がしたけれど、俺はエレベーター目がけて走るだけだった。  ギリギリセーフでいつもの電車に乗り込み、はぁと息を吐いて呼吸を落ち着かせる。  両手を上げて手すりにつかまり、混みあう車内でバランスを取って揺れに身を任せる。  あ、今日も飯はいらないって言うの忘れたな。  ふと思ったが、とてもじゃないがスマホを取り出してメッセージを送れる状況じゃない。  ま、いっか。  今日は普通にバイトの日だし。  いちいちバイトかどうかを伝えるのが面倒で、シフト表を渡してある。  バイトの時は店で簡単な賄いが出るから、俺の分の食事の支度はしなくていいと伝えてある。  それでも、翠さんは毎日、何時に帰るかを聞く。  まるで、ちゃんと帰ってくるかを確かめるように、少し不安そうに。  何時に帰るかを聞く時は、微笑んでないんだよな。  父さんにも毎日聞いていたのだろうか。  母さんの元から帰ってくるかと、確認していたのだろうか。  そう思うと、翠さんも哀れだ。  本妻の元に帰って行く恋人を見送る母さんも哀れだったが。  結局、悪いのは父さんだ。
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