2.別れの理由

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 子供用ではなさそうだが、水彩画のような儚げなうさぎの横顔が描かれている。  そしてもう一つ。  隣のクマの絵の茶碗を手に取る。当然のように。 「翠さん」 「?」 「俺、そっちのがいい」  断れないならせめて、と思ってクマの隣のきつねの茶碗を指さした。 「あ、こっちも可愛いわよね」  クマを置いてきつねを持つ。 「ふふっ。可愛い」  茶碗ひとつで大袈裟な喜びよう。  食器に限らず、マンションはかなりシンプルで色味が少ない。  若い女性が暮らすには殺風景なほど。  あまり物を置きたくない人もいるだろうが、そうなのだろうか。  選んだ食器を見ると、そうとは思えない。 「シリーズでお椀とか箸もあるみたいだけど?」  すぐ隣の棚を指さすと、彼女の視線が移る。 「どうせなら揃えれば?」 「いいの?」  なぜ俺に聞くのか。 「いーんじゃない?」 「志雄くんのも? 揃える?」  心なしか期待を感じさせる声に、嫌とは言えない。 「うん」  結局、茶碗とお椀と箸、スプーンやフォークも揃えた。  下の階のスーパーマーケットにも行った。  ネットでは買えないものや、ネットの写真とは印象が違ったものなんかをカゴ一杯に買った。  俺一人じゃ持ちきれない量だ。  帰り道、買いすぎたことに肩を落としていたけれど、嬉しそうだった。  なぜ買い物に歩かないのかと聞くと、翠さんは「よく迷子になるから、禁止されてしまったの」と苦笑いした。  さすがお嬢様だが、何度も違う道を曲がりそうになって納得した。  同じ道でしか行き来できないらしい。 「方向音痴なのは母親譲りみたいでね? 父は母を見つける天才になっちゃったの」  そう言って微笑んだ彼女は、少し寂しそうに見えた。    
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