2.別れの理由

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 今思うと、母さんの言う『ひと回りも年下の子供』が不幸にならないように、なんて思春期でカッコつけ男子のくだらない正義感だった。  その正義感のせいで、俺は呪いにかかった。  だから、ずっと、翠さんのウエディングドレス姿を忘れられない。 「志雄くん」 「ん?」 「ごめんね?」 「なにが?」 「あなたを巻き込んで」 「……?」  足を止め、振り返った。  彼女の背後でオレンジ色の太陽が揺れる。  少しだけ眩しくて、目を細めた。  だから、翠さんの表情がよく見えない。 「なにに?」 「私の――」  ピロリロリンッ  陽気な電子音がして、俺はハッとした。  スマホを見ると、アラームが表示されている。 「やべっ! バイトだ」 「え? あ、行って? 荷物は――」 「――先に行って荷物置いとくから、ゆっくり帰って」  俺は翠さんの荷物を奪うようにして持った。 「え? あ――」 「――ここからなら帰れるでしょ」  マンションまで真っ直ぐだ。  俺は荷物をガサガサ言わせながら走り出した。  マンションに荷物を置いて、数分前に走った道を引き返す。  別れた場所とマンションの中間地点で翠さんとすれ違った。 「いってらっしゃい!」 「行ってきます」  すれ違いざまの言葉に反射的に返事をして、振り返らずに駅を目指した。  彼女の声が縋るような、必死なように聞こえた気がしたが、振り返らなかった。  バイトに遅れそうとか、気のせいだろうとか、自分に言い聞かせて。  高校を卒業するまでの同居生活だ。  特別な感情を持ってはいけない。  そう思う時点で手遅れなのだと、この時の俺は自覚していなかった。  アラームとは別に、ポケットの中で何度も震えるスマホの通知を無視したのも、そのせいだ。  十数件の、和奏からの着信とメッセージにぎょっとしたのは、バイトが終わってからだった。
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