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午前授業だって言うの忘れたな……。
週明け、職員の研修だかなんだかで午前授業の日。俺はそれを翠さんに伝えずに家を出た。
最近、朝ご飯をのんびり食べていて、慌てて家を出ることが多い気がする。
「志雄! 今日からバイト休みだよね? 一緒に勉強しよ」
明らかに不機嫌そうな和奏の声に、気が滅入る。
土曜日のバイト帰り、彼女に電話をした。
着信と、電話してというメッセージが何件もあったから。
だが、出なかった。
着信とメッセージも、バイトの時間中はなかった。
大した用ではなかったのだろうと思って、その後は連絡しなかった。
「人と一緒じゃ頭入んないから」
「私は志雄に教えてもらいたいの」
「それじゃ、俺の勉強になんないだろ」
「家に来るって言ったじゃない!」
和奏のヒステリックな声に、教室中の視線を浴びる。
「和奏。なんなん――」
「――志雄。一日くらい和奏ちゃんに付き合ってやれよ。マジで最近、冷たすぎだろ」
珍しく、永田が真剣な表情で言った。
「土曜だって、和奏ちゃんとの約束破ったんだろ? 親が……あんなことになって大変なのはわかるけど、和奏ちゃんが何回も電話してるのに――」
「――随分…」
『随分、和奏の肩を持つんだな』と言いかけて、やめた。
言わなくても、わかった気がしたから。
和奏が何度も電話したこと、どうして永田が知ってる――?
邪推だろうか。
でも、今日登校してから今まで、永田は教室の俺の前の席に座っていた。
なら、永田が和奏からそれを聞いたのは今日じゃない。
二人が、俺の知らないところで連絡を取り合っているということじゃないのだろうか。
別に、気にしない。
永田が和奏の連絡先を知っていようが、和奏が俺のことで永田に愚痴を言おうが、構わない。
ただ――。
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