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「わかった」
「え?」
二人して驚いた表情をした。
「なんだよ」
「わかったって? なにが?」
永田が高速で瞬きしながら聞いた。
永田はいい奴だ。
いい奴で、嘘がつけない奴だ。
だから、俺の『わかった』にビビッてる。
わかってほしくない『何か』があるから。
そして、和奏もまた、唇をもごもごさせて永田を見ている。
「今日、和奏の家に行く。それでいいんだろ?」
二人が俺を見る。
和奏は嬉しそうに、永田は信じられないといった表情で。
チャイムが鳴り、和奏が隣の教室に戻っていく。
その後姿を、永田がじっと見ていた。
「勉強になんかなるかよ」
バッグから次の授業の教科書を出しながら呟くと、永田が何秒後かに俺を見た。
「え?」
「いや、和奏さ。あれ、勉強なんかする気ないだろ」
「そんなのわかんな――」
「――ヤリてーだけだ。ま、いいけど。テスト前にヤッてスッキリするわ」
「そんな言い方――」
「――お前が言ったんだろ? 嫌なことはヤッて忘れろって」
「~~~っ!」
わざと、嫌な言い方をした。
永田は俺の言葉にムカついたようで、勢いよく身体の向きを変えて座り直し、机の脚を蹴飛ばした。
永田が和奏を好きだとは、知らなかった。
いや、好きになった、のかもしれない。
どっちでもいい。
ただ、和奏がどういうつもりで永田に近づいたのかが気になった。
放課後、和奏の家に行った。
コンビニで昼飯を買って行ったのだが、食べるより先に和奏が抱きついてきた。
最初からこんな感じだった。
一年の終わりに告られて、数日後に家に呼ばれた。
和奏がナニを期待しているのはわかっていたが、最初の数回は手を出さなかった。
女子の間で、何人とヤッたとか誰とヤッたとか、そんなマウントの取り合いをしているらしいと男子が話していて、くだらないと思ったから。
和奏には、特に親しい友達がいない。
少なくとも、俺は知らない。
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