1.ふたりの食卓

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「あなた、こんな場所にまで押しかけてどういうつもり!? 話があるなら、せめて葬儀の後で――」  自称母親の伯母という女が、彼女に詰め寄る。  だが、彼女は真っ直ぐに俺を見たまま。 「――一緒に、来る?」  伯母の言葉などまるで無視して、そう言った。 「私と一緒に、来る?」  何を言っているんだ?  確かにそう思った。  だが、そう言ったのは俺じゃなかった。 「何を言っているの!? あなた」  ヒステリックにそう言った伯母は、別に俺を心配しているわけじゃない。  ただ、体裁を気にしているだけだ。  俺も彼女も、伯母など全く気にせず、ただお互いを見ていた。  睫毛が小さく震えている。  表情からは何の感情も読み取れないけれど、きっと冷静でいようと必死なのだろう。  愛人の葬儀(こんな場所)だから、当然だ――。  なのに、彼女は来た。  そして、聞いた。  愛人の息子である俺に――。  二十五歳の女性には、到底耐えられない現実と、状況だろう。  なのに、涙どころか不安そうな表情ひとつ見せない。  そもそも、名乗りもしなかった。  それは、俺が自分のことを覚えていると確信しているから。  そして、きっと、俺の答えも――。 「一緒に来てほしいの?」  俺の問いは予想していなかったのだろう。  彼女は少しだけ視線を落とした。 「……わからない」 「志雄! 何を言っているの。この女のせいであんたの母親は――」 「――いいよ」 「え?」 「一緒に行っても、いい」  そう言った瞬間、彼女が微笑んだ。 『わからない』なんて嘘だろ。  わからないなら、聞くはずがない。  わからないなら、そんな風に微笑(わら)ったりしねーだろ。  この日、俺は(すい)さんの息子になった。
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