1.ふたりの食卓

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 いつもつけっ放しのテレビから天気予報が聞こえてきて、まずいっ! とバターロールを口に突っ込んだ。 「ほひほは――っ」  無理に喋ろうとして吹き出しそうになり、慌ててアイスコーヒーを飲む。 「大丈夫?」  翠さんが慌てて席を立ち、俺の背後に来ると、背中をさすった。  細く、柔らかく、温かい手で。  俺はそれを払うように身を捩り、ソファに掛けてあるジャケットと、ソファの足元のバッグを持った。 「行ってきます」  足早に玄関に向かう。 「待って! 今日は何時に帰る?」  翠さんが追いかけてきて、聞いた。  毎日、必ず聞くこと。 「バイトだから、飯はいらない」 「今日はバイトの日じゃないのに?」  「代わったんだ。来週はテスト前でバイトに入れないから」 「そう」  顔を見なくても、がっかりしているのがわかる。  俺はその場から逃げるように勢いよくドアを開けて飛び出した。 「志雄くん!」  反射的に振り返ると、閉まりかけたドアの隙間から、いつもの穏やかな微笑みが見えた。 「行ってらっしゃい」  母親は俺より少し早く家を出る生活をしていた。  だから、だ。 『行ってらっしゃい』と言われ慣れていないから、こんなに照れくさい。  こんなに、身体が熱い。  それだけだ。
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