1.ふたりの食卓

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「後見人にうるさいこと言われたくないんだよ。どうせあと一年半だ」 「えぇ~。あと一年半もこの調子?」 「来週、和奏ん家行くから」 「ホント? 親がいない日、聞いとくね」  俺の机の上で手を組んで、腕の上に胸をのせる格好をすると、そこまで大きくない和奏の胸もクラスの男どもの目を引く。  そのせいで、和奏が教室に戻った後でからかわれる。 「志雄。ツラいことはHで忘れちまえ」  隣の席の永田(ながた)が俺の肩に手を置いて言った。 「ヤッてツラいことを忘れられたことがあるのか?」 「聞くなよ! ヤッてないことがツラいんだから」  ノリがいい奴だが、女子からすると面白い奴どまりで恋愛対象じゃないらしい。 「志雄、髪伸びたな」 「ん? ああ」  俺は前髪をひと摘まみして、確かに、と思った。  前は家の近所のメンズカットに通っていた。  今の家の近所では、まだ探していない。  というか、引っ越してから家と学校とバイト先のファミレス以外に行っていない。  せいぜい、マンションの目の前のコンビニくらい。  近所に何があるのかくらい、見ておかなきゃな……。  そんなことを思っていたから、翌日の朝、翠さんから「週末、近所を歩かない?」と言われて少し驚いた。 「高校生にもなれば、親と出かけたりしないかな」  親じゃねーし。 「あ、ごめんね。私、親じゃないよね」  考えが顔に出ていたのか、彼女が寂しそうに言った。  だから、だ。  なんだか断りにくくなった。 「髪、切りたいんだけど」 「え? あ、駅前にあったはず、メンズOKの美容室」 「そ」  言葉が続かなくて、誤魔化すように味噌汁をすする。  昨日はパンで、今日は米。  昨日は目玉焼きとチキンサラダで、今日は玉子焼きとチキンナゲット。  昨日はコーヒーとヨーグルトで、今日は味噌汁とりんご。  翠さんは料理上手で、朝もきっと俺よりずっと早く起きて、作ってる。  きっと――。
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