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「ねぇ」
「ん?」
「父さんともこうやって朝飯食ってた?」
「え――」
翠さんの微笑みが凍り付く。
俺は別にS気質じゃない。
永田は俺が和奏にそっけないというけれど、泣かせているわけじゃないし、和奏には少し物足りないかもしれないけれどちゃんと相手している。
だけど、翠さん相手には、時々無性に傷つけたくなる。
穏やかに微笑む彼女の、泣いたり喚いたりする姿が見たくなる。
母親がどんなに望んでも手に入れられなかった『妻』の座を得た彼女を、俺も少なからず憎んでいるのだろうか。
とはいえ、母親とは仲が良かったわけじゃないし、むしろ自分以外の女と結婚した男にしがみついていることを鼻で笑っていたくだいだが。
とにかく、俺は翠さんが寂しそうに目を伏せたのを見て、複雑な気持ちになった。
わずかな胸の痛みと、湧き上がる高揚感。
だが、それも一瞬。
翠さんはすぐに元通りの微笑みを向けた。
「和志さんは毎朝、おにぎりを食べて出かけてたの」
「おにぎり?」
「そう。おにぎりとお味噌汁。お腹いっぱいにならない程度がちょうどいいからって」
「へぇ」
自分で聞いたくせに、彼女の言葉にムッとしている自分がいる。
父さんと翠さんは夫婦だ。
毎日一緒に寝起きし、食事をして、行事があれば寄り添って参加していただろう。
長年の恋人で、子供を産んで育てたとはいえ、母さんはあくまでも日陰者。
「俺、父さんが朝ご飯食べてるとこ見たことないからなぁ」
「……そうなの?」
「なんで? 父さん、家に泊まったことなかったろ?」
「あ、結婚……してからはそうかもしれないけど、その前は――」
「――翠さん、父さんと母さんが結婚できなかった理由、聞いてないの?」
「え?」
彼女の表情を見るに、知らないようだ。
「父さんは――」
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