プロローグ  物書きの皮を被った物書き

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プロローグ  物書きの皮を被った物書き

【ところで、異世界っていったい何なのでしょうか?】  都心へはまだずいぶん距離がある駅。  ふわりと湧き上がった薄紅色の街並みを背景に、僕は音もなく座席へと腰を下ろした。  電車がゆっくりと滑り出す。  少し熱があるのだろうか。  今日はやや体調が悪い。  焦点の定まらない意識で何気に開いたスマートフォンが、大きめのロック解除音を立てた。  思わず当惑して、平静を装いつつすぐにそれをマナーモードへと切り替える。  そのとき目に飛び込んだのは、昨夜ベッドに横たわったまま開いていた、『小説投稿サイト』の画面。  見ると、僕のユーザーページに一通のメッセージが寄せられている。 【(こう)()(しゃ)さま、初めまして。『たばなお』と申します】  実に丁寧な文言。  呼ばれた『恒河沙』という名は、僕のペンネームだ。  メッセージの(ぬし)に、まったく心当たりは無い。  小説本文のページを確認すると、この見知らぬ誰かは僕の作品に『レビュー』も書いてくれていた。 『類稀なる文章力が織り成す素晴らしき空想世界「異世界(とん)(とう)(たん)」 作者・恒河沙』
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