プロローグ  物書きの皮を被った物書き

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 しばらく、そのひとつ結びの地味な姿を視界の端に残していると、その背後で轟音とともに鉄橋が消え去り、徐々に街並みが漆黒に飲まれて、やがて我々は地下を疾走する乗客となった。  僕の職場である学習塾は、この路線で都心を越えた先、ずいぶん歴史のある大学のすぐそばにある。  その大学を卒業して、いまの暮らしになってから僕が書いた物語といえば、いわゆる『異世界もの』ばかり。  熱もなく、矜持も無い。  だのに、なぜレビューの主は、こんなにも僕の小説を気に入ってくれて、そして、『異世界とは何か』と問うのだろうか。  異世界は異世界だ。  非現実なる、その世界。  あくまで王道は、勇者が世界を救うために魔王に敢然と立ち向かい、そして平和を、愛する者を護るという冒険活劇。  剣と魔法、そして伝説。  神聖なドラゴン、邪悪な魔物たち。  それは、殊更に説明をする必要も無いほどに普遍的に存在する世界観で、『異世界』と言えばそれはそれ以外の何物でも無い。  僕自身は、そんなに好きでもなければ、こだわりも無い。  ただ、異世界を書いてさえいれば、誰かが気に留めてくれる。
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