7人が本棚に入れています
本棚に追加
「でも、恒河沙さん? 今日は電車で愛加里を見なかったんじゃない?」
「え? そうですね。確かに今日は見かけませんでした。あ、昨日もか。別の電車だったんですか?」
クスクスと口に手を当てる田原さん。
愛加里さんがあわわとのけ反る。
「もうっ、どうしてそんな話するのっ? そのっ……、昨日は休みだったのよ。今日はっ……、えっと……、なんだっていいじゃないっ」
「愛加里? 正直に言いなさい? 寝過ごしたって」
「うううっ、うるさいのっ」
ぽかんと口を開いている鬼泪山。
普段なら前傾姿勢で話題を持っていこうとするコイツが、なぜか石像のようにぴくりとも動かない。
その顔を見て、さらに笑みを増した田原さんは実に楽しそう。
「でもね? 恒河沙さん。私にあなたの小説を教えてくれたのは愛加里なんですよ?」
「わっ、わっ、待って」
田原さんの言葉を聞いて、突然腰を上げた愛加里さん。
広げた両手がガタンと音を立てて、勢いよくナプキン立てをひっくり返す。
ナプキンが散らばりながらテーブルの上で舞った。
「わっ、わっ」
「ちょっと愛加里、なにしてるのよ」
「だって、その」
最初のコメントを投稿しよう!