1-3  出会いは|『妖精館《アルフヘイム》』にて

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 どうやら、この人はずいぶんそそっかしいらしい。  人によってはこれを可愛いと思うんだろうが、僕にはちょっと無理だ。  それに、ずいぶん気が強そうだし、一見大人しそうに見えるのが余計に悪い。  愛加里さんの手がナプキンを拾い集めようと伸ばされると、今度はその肘がミルクティーのカップを揺らす。  思わず僕はハッとして、その肘を押さえた。 「わっ」 「ちょっと、カップをひっくり返しますよ? 大人しくしててください」 「ううう……、ごめん」  さらに出た溜息。  その長い溜息を吐き終わらないうちに僕が片付けの手を伸ばすと、愛加里さんの「ふーんだ」という蚊の泣くような呟きが耳に届いた。  さらに田原さんの笑みが増す。 「あはは……。あ、そうそう、愛加里、本を出しなさい?」 「え? あ、そうだった」  田原さんに促されて、愛加里さんがトートバッグから取り出したのは一冊の本。  田原さんの自著、『古くて豊かなイギリスの家たち』。  やや目を泳がせながら、愛加里さんが僕にその本を差し出した。  どうやら、愛加里さんは田原さんの付き人かマネージャーのようなものらしい。
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