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「恒河沙さん、どうぞ受け取ってください」
「ありがとうございます。本当に頂いていいんですか? お金、払いますよ?」
「いいの。エッセイスト『田原直子』は、ぜひこれをあなたに読んで欲しいの」
満面の笑みの田原さん。
一瞬の間のあと、僕はその本を愛加里さんの手から恭しく受け取った。
突然、鬼泪山が身を乗り出す。
「おおっ、その本、俺も持ってます。家に対するイギリス人の考え方にすげぇ感動しました」
「まぁ、ジャンパオロさんはイギリス文化に興味がおありなの?」
「はい。大学ではイギリス文学を専攻してたんで」
前傾姿勢でトークへと参入した鬼泪山。
やっと、いつもの調子を取り戻した様子。
それからは、鬼泪山がトークの流れを先導し始めたので、僕は合いの手の専門になった。
しばらくの談笑。
他愛ない、物書き談義。
どうやら、愛加里さんも小説を書くらしい。
詳しくは教えてくれなかったが、僕と同じで仕事の傍ら細々と書いているんだとか。
出版社の公募に出す専門らしく、投稿サイトにアップしている作品はひとつも無いと言っていた。
この顔でどんな物語を書くのか、ちょっと興味があったんだが。
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