1-3  出会いは|『妖精館《アルフヘイム》』にて

17/20
前へ
/199ページ
次へ
「恒河沙さん、どうぞ受け取ってください」 「ありがとうございます。本当に頂いていいんですか? お金、払いますよ?」 「いいの。エッセイスト『田原直子』は、ぜひこれをあなたに読んで欲しいの」  満面の笑みの田原さん。  一瞬の間のあと、僕はその本を愛加里さんの手から恭しく受け取った。  突然、鬼泪山が身を乗り出す。 「おおっ、その本、俺も持ってます。家に対するイギリス人の考え方にすげぇ感動しました」 「まぁ、ジャンパオロさんはイギリス文化に興味がおありなの?」 「はい。大学ではイギリス文学を専攻してたんで」  前傾姿勢でトークへと参入した鬼泪山。  やっと、いつもの調子を取り戻した様子。  それからは、鬼泪山がトークの流れを先導し始めたので、僕は合いの手の専門になった。  しばらくの談笑。  他愛ない、物書き談義。  どうやら、愛加里さんも小説を書くらしい。   詳しくは教えてくれなかったが、僕と同じで仕事の傍ら細々と書いているんだとか。  出版社の公募に出す専門らしく、投稿サイトにアップしている作品はひとつも無いと言っていた。  この顔でどんな物語を書くのか、ちょっと興味があったんだが。
/199ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加