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その後、田原さんからは『異世界遁逃譚』のことをいろいろと尋ねられた。
大した話ではないが、世界観やキャラクターの裏設定など、普段インターネット上には公開していない情報をご披露した。
その間も、愛加里さんのドジは数回。
バッグから取り出したスマートフォンを手を滑らせて落としたり、足を組み替えようとして膝を思いっきりテーブルの裏にぶつけたり。
ただただ呆れるばかり。
その呆れ顔が気に入らなかったのか、愛加里さんはその度に下を向いて、小さく「ふーんだ」と漏らしていた。
「今日はどうもありがとうございました。僕らはそろそろ……。本、楽しく読ませていただきます」
薄い笑みとともに出た、『楽しく読む』という、優しい嘘。
正直、僕は鬼泪山ほどイギリスの文化にも文学にも興味は無い。
見ると、もう時刻は午後十時を回っていた。
思いがけない邂逅に当惑もしたが、職場との往復しかしない僕にはそれなりに楽しい時間で、まぁ、いい息抜きになった。
しかし、あの愛加里さんにとってはそうではなかっただろう。
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