1-3  出会いは|『妖精館《アルフヘイム》』にて

18/20
前へ
/184ページ
次へ
 その後、田原さんからは『異世界遁逃譚』のことをいろいろと尋ねられた。  大した話ではないが、世界観やキャラクターの裏設定など、普段インターネット上には公開していない情報をご披露した。  その間も、愛加里さんのドジは数回。  バッグから取り出したスマートフォンを手を滑らせて落としたり、足を組み替えようとして膝を思いっきりテーブルの裏にぶつけたり。  ただただ呆れるばかり。  その呆れ顔が気に入らなかったのか、愛加里さんはその度に下を向いて、小さく「ふーんだ」と漏らしていた。 「今日はどうもありがとうございました。僕らはそろそろ……。本、楽しく読ませていただきます」  薄い笑みとともに出た、『楽しく読む』という、優しい嘘。  正直、僕は鬼泪山ほどイギリスの文化にも文学にも興味は無い。  見ると、もう時刻は午後十時を回っていた。  思いがけない邂逅に当惑もしたが、職場との往復しかしない僕にはそれなりに楽しい時間で、まぁ、いい息抜きになった。  しかし、あの愛加里さんにとってはそうではなかっただろう。
/184ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加