2-1  再会は小説よりも小説のようで

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「書かない……か。いや、書けない……の間違いだな」  僕にはもう、ヒューマンドラマは書けない。  どこにでもある、どうしようもない人間臭さをありありと描いて、その中で誰かの心を揺さぶる物語を紡ぐ。  たぶんもう、僕自身がそんな人間模様に心を揺さぶられることがなくなってしまったからだろう。  誰かを心から大切に思うことも、誰かを心から恋焦がれることも、それは自分が自分に対してついている嘘のひとつだと、そう自己完結してしまっている。 【そうかぁ? いいと思うんだがなぁ、お前のヒューマンドラマは。ところでお前、『異世界遁逃譚』のプロットを持って来られねぇか? できれば明日】 【明日? 別にいいけど、プロットなんてなんに使うんだよ】 【いやぁ、文芸サークルの後輩の女の子が、どうしてもお前のプロットが見たいって言うんでな?】 【僕のプロットをナンパの道具に使うな】  プロットなんて、本来、人に見せるものじゃない。  そもそも、僕は執筆前に完全なプロットは作らないし、作ったとしても世界観と登場人物の設定程度、それに全体を通して流れるテーマとキーワード、そして大まかな結末の落としどころくらい。
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