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【そんなんじゃねぇって言ってるだろ。いいから、、明日、プロットを持って来い】
面倒くさい奴だ。
そう思いながら、【分かった】と打った返信。
そうして溜息を伴って顔を上げると、ちょうど窓の外に駅のホームが流れ始めた。
列車が止まり、一瞬の静寂が辺りを包む。
僕が乗る駅からふたつ次の、川の下にある駅。
ここから地上へ這い出てちょっと歩けば、さっき鬼泪山が言った文学大賞の『竹邉書房』の本社がある。
僕が一番嫌いな出版社だ。
疎らな人影。
もう通勤ラッシュをずいぶん過ぎた時間、この疎らさがなんとも心地よい。
その心地よさを満喫しつつ手元のスマートフォンへ目を戻そうとした瞬間……。
「あ」
「え? ああっ」
開いたドアから現れ、突然に僕の心地よさを奪った、その姿。
「愛加里さん……」
「な……、なによ」
立ち止まったまま、ジトリと僕へ向けられたその瞳。
やや上品に色が抜けたブルージーンズに、ふわりと柔らかなクリーム色のニット。
チラリと見ると、今日はちゃんとスニーカーを履いていた。
「別になんでもありません」
「ふーんだ」
なんなんだ。
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