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1-1 柔らかく揺れたひとつ結び
「ねぇっ、萩生先生っ、わたしも『先生』になっちゃいましたっ」
白を基調とした無味な学習室は、窓の外を満たす漆黒に迫られて、まるで深海に沈んでいるかのようだ。
講義の終わりを告げる、軽薄な電子音。
それとともに椅子を引く音が響き渡ると、塾生の子たちが一斉に立ち上がった。
そして、なぜかその喧騒を押しのけて、唐突に教壇へと駆け寄る満面の笑みがひとつ。
湊桃香さん。
我が国随一の最高学府を目指している彼女は、今年の春からこの塾に通うようになった高校二年生だ。
柔らかなショートカットが可愛らしいが、その目はずいぶんと大人の様相をしている。
身を包んでいるのは、都内有数のお嬢様学校の制服。
そして、その上には、秋らしい淡い榛色のカーディガン。
なにを企んでいるのか、やっと最後の講義を終えて家路へ就かんと急ぐ僕の袖を掴んで、彼女はそれをパタパタと揺らしつつわざとらしいえくぼを見せた。
努めて笑顔で返す。
「えっと、どうしたの? 湊さん。キミが先生?」
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