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起
目を開ければそこは大聖堂だった。
意識が戻った、と言った方が適切かもしれない不思議な感覚で僕たちは立ち尽くしていた。
神々しいまでに光に満ちたこの場所で、大勢の人たちがお互いに顔を見合わせたりと今、この状況への理解を試みている。
尊も例外では無く、このざわめきの一部となっていた。辺りは知らない顔ばかりだ。
これはいわゆるあの世か?
尊の最後の記憶は、雨に打たれたコンクリートのカビ臭い匂いと、けたたましく鳴り響くサイレンの音。
頭が痛かった。
カツンッ。カツンッ。
大聖堂の正面、一段上がった壇上へ美しく着飾った一人の女性が現れた。
そして彼女の背中には綺麗に折り畳まれた白い羽のようなモノが見えた。
まるで天使のようだった。
壇上へ上がった女性は、ただ黙ってこちら見下ろす。
尊を含む大勢の人々のざわめきだけが大聖堂に小さく響く。
しかし注目が壇上へ向けられていくにつれ、次第にざわめきは小さくなっていった。例えるなら、学校の全校集会で校長先生がスピーチを始める直前のように徐々に静けさが支配していく。
壇上の彼女が動いた。
パンッ。一つ手を叩いて言った。
「はい。皆さんが静かになるまで35秒掛かりました。」
え?
「はい。35秒、これは決して悪い意味ではごさいません。突然の状況に混乱されていると思います。そんな中、貴方方は無闇に動いたり暴れたりせず落ち着いて状況の理解に努めた。そして私がこの場に立ってから、たったの35秒です。素晴らしい事です。はい。皆、拍手。」
気付けば尊たちを囲む様に背中に羽の生えた人たち(天使?)が現れ盛大に拍手を始めた。
拍手喝采。パチパチと手を叩く音が聖堂内を満たす。
「はい。申し遅れました、私は大天使を務めさせて頂いておりますミカと申します。早速ではございますが、日本天使協会を代表してここ関東支部、入隊試験のご説明をさせて頂きます。」
ここは関東なのかと思った。
「はい。まず初めに、貴方方は既にお亡くなりなられております。」
ざわめきが波紋する。しかし皆、尊同様に心当たりがあったのだろう、それは一瞬で収まった。
「しかし。悲観してはなりません。貴方たちは選ばれたのです。そう、天使の卵としてです。」
壇上に近い一人の男が恐る恐る手を挙げた。
尊は良くこんな状況で手を挙げられるものだと関心した。
「あのー、つまり僕達は天使に生まれ変わったと言う事ですか?でもこう言うのって記憶が残ってて良いんでしょうか?」
当然の疑問だ。
「Excellent。はい。良い質問です。はい。拍手。」
またしても、天使達はパチパチと激しく拍手をする。
「はい。これはテコ入れです。」
テコ入れ?
「通常であれば、記憶と記録を綺麗に浄化した……失礼、消去した魂を使用します。そして、基本的な教養、倫理観などを学び天使として教育するものです。しかし昨今、天界も人手不足が深刻化しております。」
ざわさわ。
「そこで貴方がたの登場です。貴方がたの生前の善行、犯罪歴、倫理観、それらは天使の卵として遜色が無いと私たちは判断しました。そして、今までは時間を要していた教育プログラムを短縮する事で迅速な人員確保を実現させる試みとなります。」
「効率を上げるのです」
「ただ…。」
「ただ…、天使となるにはいくつかの実技訓練と最終試験をクリアしなければなりません。」
そこで、またあの男が手を上げた。
「あのー、質問良いですか?」
「Great。 はい。何でしょう。」
「僕たちには、天使になる事で何かメリットはあるのでしょうか。」
「Excellent。はい。また良い質問です。天使となり従事する事で、貴方がたは次の来世で特権を得られるのです。お金持ち、才能、美男子、美少女、etsetora。」
おおぉ、と歓声が上がる。
しかし、中にはそれらに魅力を感じない者もいるようだ。
「そう言った特権に興味の無い方には魅力は薄いかもしれませんね。まぁ、次も人間に生まれ変われるとは限らない事ですし、是非前向きに考えて頂きたいものです。」
大天使ミカの最後の言葉に緊張が走った。
こんなもの自由意志に見せかけた強制参加じゃないか。
「それでは皆さん、天界に名を残せる偉大な天使になれるよう、精一杯切磋琢磨して試験に挑んでください。これにてご挨拶とさせて頂きます。」
尊たちを囲む天使達の拍手の音が響いた。
ミカが壇上を降りると、入れ替わるように別の天使が壇上に上がり一礼する。
ミカよりも小柄で十代の女性くらいに尊は見えた。
「お前達をこれから、一端の天使に鍛えあげる。天使長のサカエルだ。サカ様と呼ぶと良い。それではさっそく班を作り訓練を開始する。」
「・・・・・。」
「返事っ!!!」
「「「は、はいっ!」」」
その小柄な体躯のどこからあんな声が出るんだと尊は心底驚いた。これじゃ、天使じゃ無くて兵士じゃないか。
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