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ある日の夕刻。
ニナは仕事を終え洗濯場から短い廊下を通って裏口へ向かっていた。もうへとへとだった。
廊下の角に置いてあったごみ箱の前を通り過ぎた時、違和感を感じた。目の端に、ごみではない物が映った気がした。
振り返ってよく見ると、本が捨ててあった。表紙に群青色に染められた革が使われている本だった。
ニナは、驚いてごみ箱から本を回収した。大学構内であろうと本が貴重である事に変わりはない。
「きっと誰か、間違えて落としたのね」
ニナは、大学の何処に戻すべきか分からなかった為、とりあえず講師に届けるなりしようと思った。その時、表題が目に入った。息を呑んだ。
それは、ある絵を歴史的な背景を含めて考察した本だった。
その本に取り上げられている絵は王都の大聖堂に飾られている宗教画だ。
幼い頃、それを見たニナの心を鷲掴みにした。
心臓が早鐘を打っている。知らない間に息を止めている。
ニナは、日常困らない程度の文字は読めたが、この様な専門書を読めるほどではなかった。それでも読みたかった。感じたかった。知りたかった。
これはきっと大学の図書室の本だ。なら借りて、返せばいい。借りるだけだ。借りるだけ……。
ニナは、咄嗟に上着の中に本を隠した。その時だ。
「何してんの、あんた」
若い男の声がした。
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