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ニナは、心臓が止まるかと思った。身体が動かない。全身から汗が噴き出した。
学生であろう若い男は、近寄って来ると、服の上から本を持っているニナの手を掴んだ。強引に本を引き出す。
「これ、俺のなんだけど」
「ご、ごめんなさい! 違うんです! 大学の本だと思って」
「あんた、洗濯女だろ。こんな本に何の用があんの? 字、読めるの?」
ニナは、顔を歪め、奥歯を噛み締めた。やり場のない悔しさをぶつける様に男を見た。
男は空いた手でニナの額から上を掴むと勢いよく壁に押し付けた。強い衝撃がニナを襲う。男が顔を近付けてくる。
「何なんだよ、その目は、え?」
ニナは怯えて男を見た。身体が震え出す。
「ご、ごめんなさい」
「ごめんで済むと思ってんの? これ泥棒でしょ。大学に言ったらクビになるよな」
「違うんです……本当に、返そうと……」
「嘘つくなよ。返すだけなら服の下に隠す必要ないだろ」
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
ニナは心底後悔した。泥棒などと、そんなつもりはなかったが魔がさしたのだ。情けなく、涙が溢れた。
「大学には報告しないでおくよ」
ふいに男が低い声で囁いた。
ニナは、どういうことかと探るように男を見た。
男は、にやりとする。
「俺の言う事聞けばね」
「え」
「聞くんだろ」
どすの利いた声にニナは顔を強張らせる。男はニナの肩を強く押さえ彼女の唇に自分の唇を押しつけてきた。
ニナは、目を見開く。
男の舌が、ニナの口の中に強引に入ってくる。
ニナは、男の身体を引き離そうとするがびくともしない。逆に恐怖で手足から力が抜けていく。
ニナの膝が、がくがくと折れてへたり込むのと同時に男の口が離れた。
男は、濡れた口の周りを無造作に手の甲で拭う。まどろんでいる様な目でニナを見下ろした。
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