1.ニナ

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 ニナは、男の住むアパートに連れて来られた。拒めば仕事を失う。そう思うと逃げる事が出来なかった。  男は、ドアを開け、ニナを中に入れる。  ニナは入ってすぐの広い部屋の前に立ち、息を呑んだ。  部屋には画材が所狭しと置かれ、イーゼルが立てられ、カンバスが置かれていた。  作業用の机の上はに筆が立てられ、鉛筆が転がっている。  ニナは描きかけのカンバスを吸い込まれる様に見つめた。  男が、ニナを見る。 「何?」  ニナは、はっとなって男の方を見た。 「いえ……」  男はニナの横から部屋に入ると、カンバスを新しいものに変えながら言う。 「何してんの。早く脱いでよ」 「え?」 「服脱いで。裸になって。そこのソファにテキトーに寝そべって」  部屋の奥にベッドの様に横に長いソファがあった。 「な、なんで」 「俺の言う事聞くんでしょ? モデルになれよ」  ニナは、顔を歪めた。羞恥心で全身が熱くなる。 「で、出来ません」 「は?」 「人前で裸になんてなれません」  男は、考えるような間をおくと、部屋を出て行こうとする。 「分かった。あんたが泥棒したって、大学に言ってくる」 「え」  ニナは、迷った。クビになりたくない。でも裸になるのも嫌だ。  男は勝ち誇った様にニナの前で立ち止まる。 「洗濯婦なんて卑しい仕事でも、クビになりたくないんでしょ?」  ニナは咄嗟に言い返せなかった。だが腹が立って仕方がなかった。 「……お金、下さい」 「あ?」 「タダでは脱ぎません。お金下さい。貴重な本を捨てられる位お金持ちなんでしょ。お金下さい」  男が眉を寄せる。 「なにそれ図々しい。黙ってるのと引き換えに言う事きくんだろが」 「裸になるのは別です。お金くれなきゃ脱ぎません」  男は、鼻から息を吐くと懐から財布を取り出し、大型銀貨1枚を床に落とした。  ニナはそれを見て顔を歪める。家賃の三分の一の価値がある。嬉しいとも、少ないとも思った。 「早く脱げよ」  男が言った。  ニナは、黙って銀貨を拾うと、服を脱いだ。
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