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1.ニナ
ニナは王都にある王立大学へ通っている。講義を受ける為では無い。洗濯婦として働く為だ。洗濯婦は汚いだのと嫌われている為、敷地内へは裏口から入る。
この大学は医学部や理学部、美術学部があり、授業で使うエプロンなど、毎日の様に洗濯を必要とするものが多かった。
構内の奥まった洗濯室でひたすら洗い続ける。
女性が就ける他の仕事よりは給料が良かった。
洗っても洗っても、次々と運ばれてくる。
解剖授業で使う血に染まったエプロンを初めて見た時はその場で吐いてしまった。先輩に怒られたのは言うまでもない。
絵の具の付いたエプロンを取り上げると、ニナは仕事の手が止まる。
目を閉じて、黄や赤の絵の具が付いたエプロンを鼻に近付ける。
どの色も人の好き好きを分ける独特の匂いではあったが、どういう訳かニナは野を翔る風の匂いと感じていた。
一枚の絵が脳裏によみがえり、胸を焦がす。
青い絵の具が付いているのを見つけると、その日一日幸せな気分になれた。目から心臓の奥へと沈み込むような深く染み入る美しい青。
今日のエプロンには青は付いていない。
「もう! ニナ! 手が止まってるよ!」
後ろから、先輩が怒鳴った。この道三年のベテランだ。
「はい!」
ニナは、慌ててエプロンを舶来品の洗剤が溶かし込まれた桶につっこんだ。
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