はなのちゃん。

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はなのちゃん。

「だああああああああああああああああああああああまた負けたあああああああああああああああああああああああ!!」  俺は頭をがしがしと掻きつつ、パソコンの前で呻いていた。  目の前には“You Lose!”の文字が。画面の中では愛しい美少女キャラクター達が地面に伏せてぐったりしている。万全の装備も組んだし、戦略も完璧だったはず。なのになぜ、ランクマッチでちっとも勝てないのだろう?  それは俺が現在ハマっている、とある美少女育成RPGだった。魔法少女を一流に育てて敵と戦うゲームであり、課金すればガチャが有利になるチケットがもらえたり、限定装備をゲットできたりするという仕組みだった。  このゲームに、今までどれだけ課金したかは覚えていない。少なくともウン十万円は使ったと見て間違いない。しかし、他のプレイヤーと戦うランキング戦、通称・ランクマでちっとも勝てる気配がないのだった。自分より安い装備だったり、中には無課金っぽいプレイヤーもいるにも関わらず。 「くっそ、解せぬ……」  俺はイライラしながら、パソコンの右隅を見た。時刻はもうすぐ十五時になる。そろそろ、バイトに行くために準備をしなければならない。今日のシフトは十六時から夜までだった。安月給だが、それでも働かなければ生きていけないのが世の常だ。俺みたいに一流大学を出ているわけでもなく、何か特別な資格を持っているわけでもなく、誰かに誇れる取り柄があるわけでもない人間なら尚更そう。  非正規だろうが安かろうがちょっとブラック入っていようが、仕事を選んではいられない。毎月のアパートの家賃や光熱費も馬鹿にならないし、何より推しに貢お金は自分でなんとかするしかないのだ。今はオンラインゲームへの課金とキャラクターグッズを購入するのが精々だが、アイドルオタクを兼任していた時は毎月出て行くお金が多くて本当に苦労した記憶がある。  パチンコ店でのアルバイトはきつい。  法整備の結果煙草を吸う人間が減っただけ昔よりマシだが、それでも臭いオヤジや怒鳴ってくるオヤジは絶えないし、出玉の音で鼓膜がいつもやられそうになっている。  それでも仕事を続ける理由は単純明快、人生に推しがいるからだ。 ――推しのためなら、頑張れる!  趣味や好きなものというのは、人生を明るくしてくれる。どこまでも力が湧いてくるもの。  俺達オタクにとっては尚更に。
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