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 別に、それだけだったのに。  驚きと緊張で、派手な鼓動を繰り返した心臓がとにかく疲れた。二時間目を迎えるころには、驚きはさめてきたけれど。ほんの少し、黒板を眺める目線を左にずらせば彼女が視界に入るのだ。体が緊張に縛られっぱなしだったし、目を向けなくても隣に彼女のいる気配が迫るから、ますます募る一方だった。  あと二時間、自分に言い聞かせてとりあえず靴を履き替える。昼食代はもらっているのだが、空腹を感じないので校舎の外に出た。次第に緩んできた目蓋が重く感じる。そのまま、当てもなく、くすんだベージュ色の建物の周りを歩いてみた。  この校舎の、どこかに――手にしたスマホでまた写真を眺めた。ここの制服だから、ここに編入したのだ。いるはず、だけど。どうやって探したものやら。去年の日付の写真だから、学年は二年か三年、だがそれも、アップされた日が撮影日とは限らない。当時三年生で、もう卒業しているという可能性もあった。そうなればいよいよお手上げだが、おそらく、あのときも撮ってすぐ投稿していたので、撮影日とズレは少ないはずだ。  悩みながら外を歩く間に何人か、すれ違った生徒の中にはいなかった。あんなに目立つ髪の色なら、すぐ見つかるんじゃないかという小さな期待は甘かったらしい。肩を落として昇降口に戻ったときだった。左端の下駄箱を、金色の長い髪が横切った。 「あ。あの」  思わず声が出る。この場にいたのが、拓生と金髪の主の二人だけだったので、当の女生徒が足を止めて振り返った。しかし、呼び止めた拓生の方が固まってしまう。何も言葉を用意していなかった。  どうやって、確かめたらいいんだろう。なんて聞いたら。あなたは、って彼女の名前もわからないし、maomaoの本当の名前も知らない――怪訝そうな女生徒の視線がさらに険しくなる。焦った拓生は、とっさに写真の下につけられたハッシュタグを思い浮かべた。 「あの。キラ――」  すかさず、鋭く遮られた。 「あんなヤツと一緒にすんな」  え? 呆気に取られて、さっさと立ち去る背中を追いかけるのも忘れた。
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