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(1)
「後生ですから、外に出る許可をくださいませ」
「文乃ったら。いつからお願いが言える立場になったの?」
「申し訳ございません。けれど、蔵の中がおかしいのです」
「蔵の中がおかしいのは、昔からでしょう? なんと言っても井手本家の蔵にあるのは、どれもこれも厄介な『曰くつき』ばかりなのだもの」
頭を床にこすりつけて懇願する文乃のことを、文乃の姉は蔑んだ瞳で見つめていた。
「敷地内から出るのがはばかられるということであれば、おばあさまのお部屋に入る許可をくださいませ。現状を打破するための書き置きなどがないか、確認したいのです」
「母屋に入りたがるなんて、当主の座を乗っ取るつもり?」
「いいえ、私は」
「お母さまはお身体を悪くして寝込んでいらっしゃるのに、あなたときたら自分のことばかり」
「けれど、このままでは井手本家が」
「お黙りなさい! 役立たずの癖に無駄口ばかり叩いて。あなたの今日の食事はなしよ。しっかり反省なさい」
文乃の姉が苛立たし気に叫び、無情にも蔵の扉が閉められた。実姉の肩越しに見えていた夕焼け空が、あっという間に見えなくなる。じきに日が暮れるだろう。薄暗い蔵の中で、文乃はひとり小さく息を吐いた。
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