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小説『グランドフィナーレ』は私、早瀬美咲の人生において多大なる影響を与えた唯一の物語である。
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作品の舞台となるイギリスの小さな街にある劇場『ルミエール座』はかつて輝かしい歴史を持つ場所だった。しかし、時代の流れとともに観客は減り、閉鎖の危機に瀕していた。この物語の主人公アリスはごく普通の家庭に生まれた少女で演劇とは無縁の生活をしていた。しかしある日アリスが14才になった頃、長年親しみのある友人エリーから誘われてルミエール座の劇を観に行った。
「初めて劇場に行くんだけど、エリーは何回目なの?」
「小さい頃から両親と何度か一緒に見に行ったのを覚えているわ。それを合わせると大体10回目くらいになるんじゃないかな。」
「え!そんなに行ってるの!いいよね、これだから大富豪は…。」
「今日見に行くのは初めての劇場だから、きっとアリスも面白いと思うよ?」
「ありがとう!エリーと一緒に外出できるなんて夢みたい。」
「私もだよ!」
素晴らしい圧巻の演技に心を奪われたアリスは自分も人に感動を与えられる役者になりたいと思いすぐさま終演後、劇団の団長であるジョセフにその旨を伝えた。
「あの!すみません!私、アリスって言います。今日の劇を見て本当に感動しました!私を劇団に入れさせてください。お願いします!」
アリスはその場で土下座した。
「帰った帰った。ウチは歴代役者の家系しか入団許可をとっていなくてね。あんたみたいな庶民出身が入ってしまうと、成り立たなってしまう。他の劇団をあたってくれ。」
「でも、私はルミエール座に一目惚れしたんです。そこをどうかお願いします。」
「困ったな。君、演技経験はある?」
「ないです…。」
「そんなんでこの業界が罷り通ると思っているの?ここは子供たちの遊び場所じゃない。一度のミスだって許されない世界なんだ。これだからこの劇団も衰退寸前まで成り下がるんだよ。」
「でも…」
「却下。アンタは夢を見ることだけしていればいいんだよ。余計な邪魔はしないでくれよ。」
そう現実は甘くはなかった。
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