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03.
あれってもしかして同じクラスの中島?
中学二年生に進級したばかりの春、塾の帰りに陸斗は望遠鏡をのぞき込んでいる櫂を見つけた。公園の片隅で。公園の照明や歩道を照らす街灯からなるべく離れたあたりで。
背が高く痩せ型、そしてメガネ。背が高いせいなのか、望遠鏡を乗せた三脚の足が短いせいなのか、櫂はひどく腰を折り曲げて望遠鏡をのぞいている。夜の闇のなかでぼんやりと浮かび上がるその姿は、しゃくとり虫みたいにも見えた。
けど、やがてそのしゃくとり虫みたいな格好をした櫂がふと顔を上げ、陸斗の方に目を向けた。陸斗の視線に気付いたのだろう。少し気まずい思いの陸斗は、公園に足を踏み入れる。
「こんな時間にこんなところでなにやってるのかなって」
「天体観測だよ。ええと、同じクラスの……」
「平原、平原陸斗。塾から帰る途中」
陸斗は塾の教材やノートの入ったバッグを掲げる。
「そうなんだ。遅くまで大変だね。っていうか、クラス替えしたばかりだからさ、クラス全員の名前もまだ覚えてないんだ。ごめん」
「いや、謝ることじゃないよ。おれだって、同じクラスで顔を見たやつがいるなあって思ってたところだから」
ふたりは夜の公園で顔を見合わせて笑う。秘密を共有したように。
「そうだ、この望遠鏡で月を見てたんだ。君も見てみる?」
櫂にうながされ、陸斗は接眼レンズをのぞく。そこには銀色の半月が映し出されていた。雲に隠されることなくはっきりとした半月。
「すごい、こんなにはっきり見えるんだ。クレーターまで見える」
「僕の天体望遠鏡はおもちゃみたいなものだから、そこまでは」
「ぜんぜんすごいよ。こんな大きな月を見たのは初めて」
陸斗は興奮覚めやらぬまま、櫂に自分の興奮を伝える。
「いつもこんなふうに月を見てるの?」
陸斗の言葉に櫂は首を振る。
「いつもじゃないけどね。でも、今日は月がきれいに出てるから、望遠鏡で見てみようかなって。あ、そうだ、こんなこともできる」
それから櫂は自分のスマホを取り出し、天体望遠鏡の接眼レンズにスマホのカメラのレンズをあてた。
「すごい、スマホの画面に月が映るんだ」
櫂がうなずき、そしてスマホのカメラが撮影する音を立てた。
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