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05.
「あれが夏の大三角形。ベガ、アルタイル、デネブ」
そんな夏休みのある夜、あの公園で二人は夜空を見上げる。櫂がそれぞれの星を指さす。陸斗にはどれがどれだかよくわからない。
「望遠鏡で見てみればだいたいわかるよ」
櫂にうながされるままに陸斗は望遠鏡の接眼レンズをのぞき込む。すると、周囲の星よりもひとまわり大きく輝く星がたしかに三角形のかたちに配置されている。夜空の奇跡みたいに。
「こんなに街の中からでも見えなくはないんだ」
陸斗は望遠鏡から顔を上げる。
「うん。明るい星ばかりだから見えなくはない。本当はもっと山の中みたいな街の明かりが届かないところで見た方がいいんだけど」
そう言いながら櫂は接眼レンズにスマホのレンズをあてる。
カシャっと撮影音が鳴り響く。スマホの液晶画面に映し出された夜空の写真を見て、櫂の顔がくもる。
「やっぱり夏の大三角形くらいになると、いくら望遠鏡を使ってもスマホのカメラじゃ限界がある」
その画像を見せてもらう陸斗も、櫂ががっかりした気持ちがよくわかった。真っ暗な画面に針の先でつついたくらいの白い点が散らばっているだけ。スマホの画面にくっついたホコリみたいな。
「ものすごく遠くにある星だから、写真を撮るのは難しいのかな」
陸斗の言葉に櫂は腕を組み、そして言った。
「たとえばデネブまでの距離は1400光年あるんだ。1400年前にデネブで輝いた光が今やっと地球に届くくらいの」
「1400年前っていうと……」
「飛鳥時代。聖徳太子がいた時代あたり」
「遠いな」
あまりの距離に陸斗は気が遠くなりそう。
「でも、ベガまでの距離は25光年だし、アルタイルまでの距離は16光年。ものすごく遠いわけじゃない。光の速さでってことだけど」
スマホで撮った写真を保存しながら櫂が言った。
「1400光年って聞いたあとじゃね」
「でも、夏の大三角形が肉眼でも見えたし、望遠鏡でも見えた。僕はそれだけでも満足だよ。スマホの写真には写らなかったけど」
陸斗は大きくうなずき、櫂に告げる。
「おれだって櫂がいなけりゃ星なんて見てない。櫂のおかげだ」
櫂は少し照れくさそうにうなずき、そして陸斗の目を真剣に見据える。
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