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「転校するって言っても、冬休みはもうすぐじゃん」  中学からの帰り道、陸斗は櫂の言葉に戸惑う。部活帰りの帰り道はすでに薄暗く、冷たい風が吹き抜けている。歩道では枯葉が風に吹かれ、カサカサと乾いた音を立てる。 「父さんの仕事の都合だからどうしようもないよ……」  櫂は言葉をつぐむ。陸斗との約束を破ることに罪悪感を覚えているような表情で。 「冬の大三角形を一緒に見に行こうって約束はどうなるんだよ。終業式まで一週間もないじゃん」  陸斗は思わず櫂を責めるような口ぶり。櫂は困惑した顔を浮かべるばかり。 「ごめん。でも、もう引っ越しの準備だってだいぶ進んでるんだよ。冬休みに入ったらすぐに引っ越せるようにって。だから、悪いとは思うけど、陸斗と冬の大三角形は見に行けない」  櫂の言葉を聞いて、陸斗の頭にいろんな疑問が浮かぶ。冬の乾いた風が吹き抜ける。さっきよりも強く。通学路沿いに立ち並ぶ家に植えてある庭木がその風に揺れ、ガサガサと耳障りな音を立てた。その音が櫂の心を引っかくようにも思えた。 「ちょっと待ってよ、櫂。引っ越しの準備が進んでるってことは、もっと早くから転校することはわかってたのか?」 「……。うん、先月には。それからは引っ越しの準備でバタバタだったんだよ。荷物をまとめたり、転校の手続きをしたり……」 「なんでもっと早く言ってくれなかったんだよ。引っ越すことをなんでおれに黙ってたんだ? そしたらもっといろんな話をして、そして特別な思い出の写真だっていっぱい撮れただろう?」 「そうだけど、引っ越しの準備だってあるし、それに急に決まったことだから、自分でも心が落ち着かないっていうか……」  櫂は戸惑いながら、陸斗と視線を合わせにくいように言った。そんな言葉や態度にさえ、陸斗は怒りを覚えた。 「でも、転校することが決まっても、冬休みには冬の大三角形をおれと見に行こうって話してただろ? 嘘つきだよ、そんなの」  思わず陸斗の声も大きくなる。櫂はすかさず反論する。 「違うよ。なかなか言い出せなかったんだ」 「それだって嘘つきと変わらない。もう櫂のことなんか知らない。友達だとも思わない。絶交だ」  陸斗は櫂を置き去りにしてひとりで走り出す。「ちょっと待ってよ」という櫂の声が聞こえた気がした。けど、陸斗は立ち止まることも、櫂の方に振り返ることもなく、自分の家に向かって走るばかりだった。
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