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「ここで撮影してるから、そこにいられると困るんだけど」
撮影? 確かにカメラスタンドにスマホが据え付けられているのが見える。
「いや、私ら部活なんで。撮影の許可取ってるんですか?」
咲乃が強気に出た。部活なんで、って意味わかんないだろと思ったけどここは黙っておく。
「許可は取ってないけど、正当な理由はある。大学の課題なんだ」
大学生にしてはかなり年がいってるように見えるけど、自信あり気なのでまるっきり嘘ということもないのかもしれない。
「建築関係?」
「いや、美術。とにかく今日中に終わらせたいんだけど」
「ここじゃなくても良いじゃないですか別に」
「後から来たのはそっちだろ」
咲乃その辺にしとけよと念じながらジャージの裾を引っ張った。おじさん大学生は怒っている感じではないけど、こっちの言い分を聞いて引き下がりそうな雰囲気ではなかった。
通りかかった車の運転席から、今度は本物のおじさんがこっちを見ていた。
「……帰ろ。見世物みたいになるから」
私がそう言うと、咲乃は鼻を鳴らして向きを変えて歩き出した。私もおじさん大学生の方を見ないようにして後に続いた。
「何を怒ってんのさ?」
「エラそうだったから」
「まあ、分かるけど、あんなのといちいちバトルしてたらそのうちヤバイよ。図書委員は戦わないでしょ」
「私は戦う図書委員なの」
「何と戦うんだよ。本投げるつもりか」
「本は投げるものじゃない」
「借りるもの」
「借りても良いけど、読めよな」
「いや、読んだし。感想文書いて提出したし」
内容は忘れたけど。そもそも何を借りたんだっけ。
「同じ話をむし返すのアレなんだけどさ、やっぱり、令歌と話すきっかけになった最初の記憶ってさ、図書室じゃないと思うんだよね。だってさ、本の貸出履歴を見たんだけど、それらしい時期に令歌が借りてる本ってなかったんだよね」
「ええ……」
何だそれは。私は反応に困ってしまう。
「ていうか、なんでそんなこと調べてるのさ」
「いや、令歌って変なことよく覚えてることあるから、もしかするとほんとうに私の方が忘れてるのかなって」
「いや……でも……」
ちょっと混乱してきた。
その記憶は本当に本当なのか問題。
証明できないよそんなの。
「……まあ、記録に残っていないなら、私の記憶の方が間違ってたってことでしょ」
「それで良いの?」
「別にそんなにこだわるつもりは……」
「いやいや、絶対納得してないじゃん。その変な苦笑いする時は絶対そうだもん」
「変とはなんだよ」
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