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小学校の小さな図書室の中の風景を思い出す。
部屋の両側が本棚で埋まっていて、その中央に読書スペースがあった。
クッションがぺたんこになって座り心地の悪い長椅子が、他に置き場所もないので仕方なくそこに置かれているという感じで存在していた。
正直なところ、あんまり清潔感がないので、当時の私はクラスのみんなで図書室に行くことがあっても早くそこを出たいという気持ちになったものだった。
そうだ。
だから、私は図書室から出るために、トイレに行ったり、そのフリをして図書室棟の周りをこっそり散歩したりしていたのだ……。
「あそこの階段……!」
「どうしたの?」
「ほら、覚えてないかな? 小学校の図書室棟のトイレの中に階段があってさ……」
私たちの通っていた小学校の敷地には、昔は軍の施設があったらしい。そして、防空壕が図書室棟の真下にあって、その入口がトイレの中にあったのだ。もちろん、普段は蓋が閉められているし、トイレの床にある蓋なんて誰も触ったりしないので、その下に防空壕があるという噂を知らなければ、そもそも興味を持ったりしないようなものだった。
誰からその噂を聞いたんだっけ……?
いや、それよりも。
私と咲乃の共通の思い出がある。
「その蓋が、開いてたことがあったじゃん……」
「………………そんなことがあったような気もするけど、え? その階段があれってことなの…………?」
私はできるだけ正確に思い出そうとした。
「あれは確か、終業式の後だった。夏休みの宿題で読書感想文を書かされるんだけど、そのためにクラスごとに順番でみんな図書室で借りてたんだ。それで私は最後の方で借りれば良いやと思ってトイレに行ったら、いつもは閉まってる床の蓋が開いていて、階段が見えてたんだ……」
「それで、令歌は地下に降りて行こうとしてたんだよね。怖いとか、変だとか思わなかったの?」
「ちょっと驚いたけど、夏休みだし、もしかして掃除してるのかなって。……で、降りて行こうとしたところに咲乃たちが来た」
「私のクラスの方が先に本を借り終わってたからね。私たちは図書委員だったから、最後に図書室を軽く掃除して帰るように言われてたんだ」
その図書委員の一人が面白がって、みんなでちょっとだけ降りてみようという話になった。
地下は真っ暗だったけど、それなりに広さがある空間のようだった。階段の上から漏れる光だけでは全体はよくわからなかった。私たちの足音と、誰かの「ヤバぁ」という声が反響していた。
さすがにそのまま探検する度胸はなく、すぐに戻ろうということになったんだけど、私はそこで何かに躓いて転んでしまった。
たまたますぐ近くにいた咲乃が手を貸してくれて、立ち上がろうとした際に一緒に壁に手を伸ばしたんだけど、そこに妙な出っ張りがあった。
「……あれ、やっぱり動かしちゃったのかな」
それは何かのハンドルのようだったと思う。
そして、私たちが体重をかけた時に、少しだけそれが回って……。
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