彼女が立体交差を見たいと言うので

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「立体交差を下から見上げるのが好きなんだよね」 「なんで?」 「なんかこう……計算された複雑さみたいなものが気持ち良いのかな」 「変なの」 「いや、そういうのないんか? 君には」 「うーん……。雲、とか。空に浮かんでいる方ね」 「あ、それはちょっとわかるかも。雲、良いじゃん」 「でも、立体交差はよくわからんし」 「じゃあ、見に行こうよ」 「は? 今から?」 「ナウでしょ」    *  という訳でGoogleマップで近くの立体交差を探し出し、「確かここにあったよね」という咲乃の確かなのか不確かなのか微妙な確信を頼りに私たちは歩き出した。  私たちは散歩部だ。他の部活にどうしても入りたくなかったので、咲乃と二人で作ったのだ。やる気なんて無どころか無未満と言って良いくらいなんだけど、聞きつけて面白そうだと言ってにぎやかしで入部した輩がはじめの頃はけっこういたので、数の力で正当な部活動として認められた。今はみんな幽霊部員になってるけど。  活動内容としてはとにかく歩く。そして健康的な学生生活を送り、卒業まで完走するのだ。いや、歩くんだけど。  で、立体交差を見に行くことになった。  別に何でも良いのだ。  学校指定のジャージに着替えて、適当に歩いて夕方までに戻ってくれば良い。けっこう真面目に続けているんだこれでも。ひとつ問題があるとすれば、靴の消耗が早いってことくらいかな。最初に履いてた靴がダメになった後は、少しだけ良い靴を買った。お陰で歩くのが楽になったし、良い投資だった。咲乃も真似してそうしている。  咲乃は小学校から同じなんだけど、小学校の時はあんまりよく知らなかった。同じクラスになったこともあったのに、一緒に遊ぶグループじゃなかった。  国語の授業で何かの本を借りないといけなくて図書室に行ったら、咲乃がいたんだ。図書委員なんかやってるから。それがきっかけで話すようになった。  でも、それを言うと咲乃の方は「そうじゃない」って言う。  いやいや、じゃあ、あのとき図書室にいた咲乃は誰なんだよって話なんだけど、こんな話で意地を張り合ってもしょうがないので、「あれ? そうだっけ」とか適当に流しておくことにしている。  立体交差の下にたどり着くと、咲乃はさっそく見上げた。ほんとうにちょっと楽しそうにしている。私も隣で見上げてみたけど、やっぱりよくわからない。何してるんだこれは。 「オイ、何してる?」  おじさんの声がした。無視するか一瞬迷う。警察ではないみたい。
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