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「ほら藤次さん!いい加減出てきて!皆さん待ってるかもしれないでしょー!!」
「いーやーや!!こないな姿、あいつらの前で晒せるかいっ!!絶対結婚式ん時みたくバカにされる!!」
「大丈夫よ!ちゃーんと似合ってるから!!ホラッ!早く!!」
「イーヤーヤー!!」
「??」
不意に部屋の奥から聞こえて来た絢音と藤次の声に、何事かと瞬く一同に対し、抄子は計画通りとばかりに微笑み口を開く。
「絢音ちゃーん!藤次君準備できたー?」
「あ、ハイ!素敵な衣装ありがとうございます!!ホラッ!藤次さん!!」
「うー」
観念したかのような声と共に、絢音に腕を引かれて現れた藤次の姿を見た瞬間、抄子はサッと、持っていた賢太郎の眼鏡を掛けさせたので、視界が開けた彼と真嗣は、目の前に仮装した悪友を見るなり言葉を失う。
「どうです皆さん!素敵なドラキュラ伯爵だと思いません?差し詰め私は、使い魔の黒猫メイドかしら?!ね、藤次さん!!」
「あ、ああ…」
髪の毛をオールバックにし、レースやフリルがふんだんにあしらわれたゴシック調のドラキュラの衣装に身を包んだ藤次は、呆けた顔をする悪友やその妻達の視線がむず痒くモジモジしていたら…
「おじさん、似合わない。」
「プッ!!」
ポツンと真顔で呟いた可奈子のセリフが、笑いを噛み殺していた大人達の均衡を打ち砕き、一同は一斉に笑い出す。
「し、抄子さん!分かっててやったでしょっ!!?いくらなんでもこれは酷い!!」
「同感だな。こんな血色の良い小麦肌のドラキュラは無い。しかも口を開けば関西弁。まだ、結婚式の白のタキシードの方が許せる。」
「やだもー楢山さん!!いくらハロウィンだからって悪ふざけが過ぎますよー!!あー、お腹痛い!!」
「そ、そんな!皆さん〜!!」
「〜〜〜ッ!!!せ、せやから嫌やったんや!!こないな格好でお前らの前出るの!!もうええ!!着替えて来る!!そもそもハロウィンは仮装パーティーちゃうんやからっ!!!」
「と、藤次さん!!」
言って狼狽する絢音を1人置いて、藤次は憤慨しながら奥へと向かうので、絢音はプウッとむくれて、未だに笑っている一同に噛み付く。
「酷いです皆さん!!いくらイタズラでも、これじゃ藤次さんがあんまりです!!」
「ま、まあまあ絢音ちゃん!あのお調子者には、たまにこれくらいのお灸を据えてやらないと!それに絢音ちゃんだって、内心スカッとしたでしょ?」
「してません!もー!抄子さんのイジワル!!藤次さんが仮装しないなら、私も着替えます!もうっ!!」
ホント酷いと言いながら絢音は藤次の向かった方向に行き、部屋の扉を開ける。
「藤次さん。大丈夫?」
「…別にこんなん…と言うか、アイツら…特に抄子ちゃんにオモチャにされるんわ、昔から慣れとるわ。そやし、怒ってくれて、おおきに。嬉しかった。」
「藤次さん…」
「せやけど、ホンマこれフリフリやな。見てみこれ、ちゃんと牙まで付いてたんやで?ホラッ!」
言って笑ってかがみ込み、絢音の眼前に顔を寄せてオモチャの牙を見せた時だった。チュッと、彼女が自分の頬にキスをしたのは…
「あ、ああっ、絢音?!?!」
真っ赤になって狼狽する藤次に、絢音は照れ臭そうに、上目遣いで微笑む。
「誰がなんと言おうと、私は藤次さんの今日の姿、素敵だと思ってるからね♡」
「絢音…」
「うん。藤次さん、大好き♡」
「っ!!」
我慢できずギュッと彼女を抱きしめて、互いに見つめ合いもう一度…今度は唇にキスをして、藤次は囁く。
「おおきに。ワシも好きや。絢音♡」
「うん♡」
「そやし、可愛いメイドさんやなー。なあ、帰ったらまたこれ着てくれへん?一人でじーっくり、楽しみたい♡」
「や、やだっ!もう!そんなエッチな目で見ないで!恥ずかしい…」
「そんなん言うてー…ホンマは期待しとんやろ?絢音♡」
「もー。藤次さんのぅ、エッチ♡」
*
「あーあーあー。見てらんないね。こりゃあ。」
「全くだ。」
「だからやめられないのよねー。あの2人おちょくるの♡」
「…楢山さん。ホント悪趣味なんだから。可奈子、見ちゃダメよ。」
「はえ?」
なかなか帰って来ないので様子を見に行って、そのイチャイチャぶりを見つめる抄子と賢太郎と真嗣と嘉代子は、そう言って盛大にため息をついた後、クスリと笑って、とりあえず2人は飽きるまでああさせておいて、自分達だけでパーティーを再開しようと、ダイニングに戻ったのでした。
何はともあれ、ハッピーハロウィン♡
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