2人が本棚に入れています
本棚に追加
「おー!!」
ーー季節は、木々も色づき始めた秋の頃。
京都郊外の真嗣のマンションでは、顔馴染みの楢山家と棗家、そして離れて暮らす妻嘉代子と娘可奈子が集まり、ささやかなハロウィンパーティーが催されていた。
余興にと、賢太郎の妻抄子が用意した様々なコスチュームの中から、賢太郎夫妻はレトロゴシックな海賊衣装、真嗣と嘉代子一家は狼と山羊の着ぐるみを着て現れる。
「わー!抄子さんもだけど、楢山君もカッコいい!!」
「でしょー!?コスプレ売り場でこれ見つけた時、絶対楢山君に着せようって決めてたのー!」
「………」
キャッキャとはしゃぐ真嗣と抄子とは対照的に、賢太郎は何やら渋い顔をしているので、抄子は不思議そうに彼を見上げる。
「どうかした?楢山君。」
「見えん。」
「へっ?」
キョトンとする抄子に、賢太郎は眼をシパシパさせ呟く。
「お前が無理矢理付けろと言ってきたカラコン、度数が入ってないから何も見えん。外して良いか?」
「………」
威厳ある海賊船長の格好からは想像できない情けない声に、真嗣と抄子は一瞬瞬いたが、直ぐに声をあげて笑い出す。
「もー!ホント楢山君てつまんない!!知らないの?オシャレは我慢よ!がーまーんっ!!!」
「いや、コスプレにオシャレも何も…第一周りが見えないと色々困ると言うか…」
「まあまあ。抄子さんのコスプレ姿は、後でちゃーんとスマホに送ってあげるから!言う事聞いてあげな?たまの家族サービスだろ?」
「…バツイチ弁護士には言われたくない台詞だな。」
「煩い。鼻持ちならない公務員!じゃあコレ、いらないんだねー」
「?」
不思議そうに眼前に向けられたスマホの画面を見ると、一体いつの間に撮影したのか、際どい角度から撮られた、抄子の生着替えの動画。
「……昔からこーゆー作業が謎に得意だよなお前。しかも他人の女房の着替えを。全く、とんだ盗撮魔のセンセイだな。」
「まあね。藤次に散々仕込まれたから。で、どう?他人の目から見た奥さんの無防備な姿。興奮するでしょ?」
「谷原。」
「なあに?」
ニコニコと笑う真嗣の着ぐるみに包まれた頭をクシャッと撫でて、賢太郎は軽く咳払いをする。
「その調子で頼む。あと、テーブルまで連れて行ってくれ。」
「りょーかい。」
そうして笑い合って、2人は妻子の待つダイニングに向かい、和気藹々とパーティーを楽しんでいたが…
「あれ?そう言えば、こーゆー仮装に一番はしゃぎそうな人間が、出て来てないような…」
「言われてみれば…遅いな。」
「おっかしーなー。絢音ちゃんはささっと着替えてたハズだけど。ね、嘉代子さん。可奈子ちゃん。」
「ええ。かなりノリノリで棗君に見せてくるって行ったけど、それっきりね。」
「絢音おねーさん、とっても可愛いネコさんだった!ね、ママ!!」
「んー?」
首を傾げる真嗣。やや待って彼は抄子に向かって口を開く。
「そう言えば抄子さん。藤次に何の衣装渡したの?」
「言われてみれば、俺たち中身を見る前にお前に着替えろと無理くりこれを渡されたな。何を企んでる?」
「んー?いやあ、まあ、藤次君なら身長あるから似合うかなぁって…ねぇ?」
「?」
意味深な含みを持たせてニコニコと抄子が笑っていると…
最初のコメントを投稿しよう!