淹れ方次第

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ふああと欠伸をしながら、五十嵐は駐車場に車を停める。 ここは郊外の里山近くにある、高山先生の家。 先生は大ベテランの元裁判官で。 趣味が高じて、退官後にこの場所で珈琲焙煎所を始めた。 儲かってるかどうかは判らないけれど。 法律家としては、たくさんの知り合いがあり。 優秀で誠実で。信頼され親しまれている人物なので。 いつの間にか。 色んな法律関係者が毎月集まり、珈琲を飲むようになって。 もちろんお目当ては珈琲では無く。情報交換。 法律分野は広く。それぞれ得意不得意もあるし。 政治や時勢との絡み。 知識はあっても感情はベツモノで。 お偉い弁護士や法律研究家だって、愚痴りたい時がある。 そんな、ちょっとした解放場所なのだ。 いつもなら待ち遠しく思うトコロだけど。 今日の五十嵐はどんよりしていた。 この2ヶ月、休日無の過重労働で。 付き合っていた相手からはもう2週間連絡が無く。 昨晩の接待では寿司を食べ過ぎて、まだ胃が重い。 ジャリジャリと未舗装駐車場を歩きながらタメ息だ。 (高山先生、いっつも寿司とってくれるんやけど。 今日は食べる気ぃなれんワ) 五十嵐は、学生時代に柔道をしていただけあって。 身体はでっかく筋肉質。 弁護士と言う仕事柄、いちおうスーツ姿だけど。 パツパツで。あんまり似合ってるとは言えない。
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