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 俺の言葉を遮って、馨はブーメランを返してきた。口を尖らせたその顔は、気に入らないことがあった時に見せるものだ。小さい頃はよく見てたなあ。 「……今はいないよ。半年前に別れたし」 「半年前……」  会話はそこで何故か途絶えた。あれ、なんか悪いこと言ったかな。  静かになったキャンプ場にフクロウの鳴き声が響く。焚き火に照らされた馨の横顔は懐かしいような、他人のような……。何を思っているんだろうか。    やがて炎を見ているうちに、眠たくなってきて俺はあくびを連発した。朝早かったしもうそろそろ横になりたい。  そんな俺の様子を見て、馨がマグカップを取り上げる。 「そろそろテントに入ろう」  そのまま片付けを始める馨。こんなに気配り上手なのに、彼女がいないなんてやっぱり嘘ついているとしか思えない。  テントの中に準備されたのは寝袋。寝袋なんて人生初なので、なんだか楽しくなって遊んでしまった。 「すげぇ、芋虫みたい」 「芋虫って!」 「お前も転がってみろよ、ほら」  テントの中で二人、ゴロゴロ転がるけど狭いからぶつかってしまう。それが楽しくてえい、えいとお互いの体をぶつけながら子供のように大笑いする。  馨の浮かない表情が消え、笑顔になってくれたから、ホッとした。  笑い疲れたころ、そろそろ寝るかとランタンの灯りを消した。 「おやすみ」  そう言ったものの、寝袋ではしゃいだせいか、眠気はとうに消えてしまっている。馨はというと背中を向けているから、寝ているのかわからない。スマホをいじろうかと思ったが灯りがついてしまうからやめて、俺はぼんやりと今日を振り返っていた。  アヒージョ、美味かったなあ。あれまた作ってくれないかなあ。まだたくさんレシピあるなら食べさせてほしい。それなら今度はもっと遠いキャンプ場に行きたいな。馨のことだから、俺が言えば連れてってくれるかもしれない。……でも俺は『一番優先される』とは限らないもんな。  チクリ、と胸が痛む。なんでさっきから俺は少し卑屈になってるんだろう。馨が立派に成長してなんでも出来るから嫉妬してるのかな。それとも弟みたいな馨が自分以外の人間に懐くのが気に食わないだけ? そんなに俺、嫉妬深い人間だったか?   そんなことを考えていたら馨の背中が動き、クルンと体制をかえて顔をこちらに向ける。馨も寝ていなかったようで、うつ伏せの体制で顔だけを俺の方へ向ける。 「眠れないのか」 「うん」 「そっか。こうやって二人で寝るの、めちゃくちゃ懐かしいな」  夏休みにはたまにお互いの家に泊まりに行くことがあった。電気を消した部屋で騒いでいたら父親にゲンコツを喰らわされたことがあったっけ。 「まさか馨がこんなに逞しくなるなんてなあ」 「……逞しくなったの、嫌だった?」  突然、馨がポツリと呟く。真っ暗だからどんな表情でそう言ったのか分からない。 「は? 嫌なわけない……」 「何も出来ないままの僕のほうが、よかった?」  その声にギョッとした。何故なら明らかに涙声だからだ。 「馨、何泣いてんだ」 「『逞しくなれ』っていっちゃんが言ってたから部活、嫌いな陸上部に入って体鍛えたのに。不器用なところも治して、自信がついたからキャンプに誘ったのにっ。なのに、いっちゃん昔の俺の方ばかり懐かしんで」  ちょっとまて、確かに少し僻んでたけど、そんなに嫌味っぽく言ったっけ? 「挙げ句の果てに、僕が知らない間に彼女作って」  その言葉でピンときた。なんだ、馨は俺に彼女がいたことが気に食わなかったのか。  俺と同じで最優先の人間じゃなかったことがショックだったんだな。
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