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4.
唇を離すと馨は目をぱちぱちさせていた。俺は熱くなったほおを手で冷ます。
「言っとくけど! これファーストキスだからな!」
「えっ? 彼女いたんじゃ……」
「いたというか何というか」
「……もしかしていなかった?」
そう。見栄を張りたくて、つい半年前に別れた、なんて言ってしまったのだ。俺が答えないでいると、馨が突然寝袋から飛び出してきて俺に抱きついてきた。
「ち、ちょっ……」
「いっちゃんのばか! しなくていい告白したじゃん!」
「い、いやでもこれで自分の気持ちを墓場まで持って行かなくてよかっただろ」
「そうだけど!」
いつのまにか馨の涙は止まっている。しかも彼女がいなかったことが嬉しかったのか、少し口元が緩んでいた。さっきまで大泣きしていたくせにと思うと、だんだんとおかしくなってくるもので、俺が笑うと馨も笑い始めた。
そうやって二人で声を出して笑いあう。
「完全に目が覚めたし、星でも見るか」
寝袋を脱いで、テントから外に出る。見上げると満天の星だ。
星を見ていると、隣で馨が呟く。
「いっちゃん、ごめんね。たくさん文句言って」
「いや俺のほうこそ」
するとそっと馨が手に触れてきたので、俺はその手を握る。
「俺さ、お前に彼女いるのかなって考えた時めちゃくちゃ寂しかったんだ。でもそれが庇護欲からなのか、違う感情なのか自分でも分からなくて。だけど多分、馨と全く同じ気持ちだったのかも」
馨がどんな顔をしているのかは分からない。恥ずかしくて見れないのだ。
しばらく沈黙が流れて馨が口を開く。
「ねえいっちゃん」
「なに?」
「キャンプに誘ってよかった。本当に、よかった」
少しだけ馨の目がまた潤んできた。俺は頭を撫でてやると猫のようにすりすりしてくる。
「大袈裟だな。次は飯、作れるようにしとく」
「……あまり期待せずにおくね」
「何だと」
髪の毛をくしゃくしゃにすると馨は笑いながらこっちを見つめた。その瞳が、何を言いたいのか分からないふりは出来なくて……
ゆっくり顔を近づけ、キスするとさっき感じた感触よりさらに甘く感じる。すると馨が腕を伸ばし俺の体を抱きしめた。
「ん……」
そのまま離れるかと思った唇はまた重なり、今度は馨が舌を入れてくる。ヌルリとした感触に背中がゾクリとした。驚いたけどそのまま続け、ようやく離して、馨が耳元でつぶやいた。
「大好き」
頭を俺の肩に乗せてめいいっぱい甘えてくる馨。
「……ッ、お前、そういうのどこで習ったんだよ」
馨は答えることなく微笑んだ。
***
それから、五年間会わなかった穴埋めのように、それからは頻繁に馨と会うようになった。大学卒業したら近くに住む予定だ。馨はしつこく同棲しよう、なんて言っていたけど。とりあえずは別々に一人暮らしだ! と俺が決めたんだ。
「どうせお互いの部屋に入り浸るようになるんだから、同棲した方が早いし家賃だって助かるのに」
口を尖らせる馨。最近は馨のほうが主導権を握っていて、昔とすっかり逆転してしまった。
「……そうかも知れないけど、物事には段階ってもんがあるだろ」
「はーい。じゃ今のうちにたくさん手料理していっちゃんの胃袋掴んでおこう。そしたら同棲したくなるよね」
そう言って笑顔を見せる馨に、俺はキュンとしてしまうのでもうきっと、離れられないんだ。
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