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5.馨の決意
【キャンプの夜から遡ること、三日前】
「海外留学、するの?吉田」
今日の講義が終わり、教室を出ようとした馨に友人の赤城が話しかけてきた。
「よく覚えてたね」
「そりゃ友の将来がかかってるからな。締切、休み明けだろ?」
赤城に大学を中退し海外に行くかも、と行ったのは数ヶ月前のことだ。それから何も言わなかったのに、律儀な友は締切まで覚えていたようだ。
「ありがとう。……最後に確かめたいことがあって、それを確認したら」
「あの幼馴染の話か」
赤城にずっと片想いしている幼馴染がいると馨は相談したことがあった。それが同性だと聞いても赤城は引かずに聞いてくれたのだ。
「その子に休みに会うとか?」
「キャンプ、誘ってみた」
「やるじゃん!」
ひゅー、と肘で体を突かれて、馨は苦笑いする。
「……告白はしないと思うけど、最後に自分の気持ちを確かめようと思ってさ」
本当にこれで最後にできるのか。一郎を目の前にして、気持ちが抑えられるのか。
神妙な顔つきになった馨に赤城はそうかあ、と呟いた。
「まあ、お前が後悔しないようにしろよ。俺はこのままお前と一緒に大学、卒業したいけどな」
ポン、と頭を叩かれる馨。ラーメンでも食いに行くかと誘われて笑顔で頷いた。
全ては明後日の、一郎とのキャンプにかかっている。
一郎を諦めるなら、海外へ行く。気持ちを切り替えるために。
一郎を諦めきれないなら…海外には行かない。
(できることならいっちゃんのそばにずっと、いたい)
次に赤城にあったとき、自分はどっちの報告をするのだろうか。
そんなことを考えながら、馨は赤城と教室を出た。
【了】
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