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僕は思う。人は宿命から逃げられない。
たとえば、名前。「静」と名付けられたらその人は、「しずかちゃん」と言われてしまうことから逃がれることなど、絶対できない。
なぜなら、僕がそうだからだ。僕の名前は、「小泉静」。これまでの人生、「「静」って、女みたい」と、何度からかわれてきたことか。親戚にもからかわれたし、何ならきょうだいにもからかわれた。
そんなだから「僕はしずかちゃんじゃない。しずかくんだっ」などといちいち反論する気も失せてしまい、名前の通り「しずか」に生きる人間になってしまったのは、自然の流れだったと言える。
長年「しずかちゃん」といじられ続けた結果、僕は仲間というものを信用できなくなった。友だちを作らず、できたとしても心を許すなどありえなかった。高校に入学して中学までの人間関係から解放された僕ではあったが、名前の呪縛は一生ものだ。またからかわれないとは限らない。だから、僕は独りであり続けたいと願い続けた。
そうして、僕は今ここにいる。教室の隅で、本を読むふりして、一人我が身の人生を振り返ってみたりしているのだ……。
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