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あれから半年、私の腕はずいぶん太くなり、草刈りの知識もついてきた。
地面近くで草を刈るだけではなく、地面から20センチほどのところで刈る「高刈り」という手法があることを知った時は驚いた。
イネ科の雑草は真っ直ぐ50センチ近く伸びるが、刈っても刈ってもあっという間に成長する。
それは「成長点」というものがイネ科は根元近くにある為にすぐに成長するが、あえて20センチほど残して刈ることで成長を抑えられ、そこに横に広がる「広葉雑草」が徐々に侵蝕してくるというものだった。
その手法を役所の人たちに理解させるのにかなり時間がかかったと社長から聞いたが、それは大変だったそうだ。
なにしろ、20センチも残っているのだから「手抜きをするな!」と言われるのは当然だ。
それで、一つの公園を高刈りの手法でやってこまめに写真を撮り、3年近くかけて理解してもらったという。
草刈りの頻度はそれほど変わらないが、作業員の負担がかなり減るのだ。
地際を刈らなくていいので、小石が顔や体に当たらない。
高齢の作業員がほとんどなので社長はなんとしても「高刈り」を理解させたかったという。
ある日、焼肉定食を食べていると食堂のおばさんに、
「楽しそうだね。前は声掛ける気もしないほど暗かったよ」
と言われて嬉しかった。
給料は安いけど、生きることが楽しいと思える日々を過ごせていることに感謝したいと思った。
「サンキュー、イエス様」
と思わずつぶやいたが、
「あ、俺、クリスチャンじゃないや。お釈迦様もご先祖様もありがとね」
ご飯が美味しかった。
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