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さて、その最高責任者と会うのであれば、身だしなみは整えなくてはなるまい。ベッドで臥せっているときも、リハビリ中もわざわざ向こうから声を掛けてくれたものだが、未だ病室暮らしの身とはいえ、リハビリが終わっている今は、こんな見苦しい恰好ですみません、などとは到底言えないのである。
一度伸びをした後、ガラガラと音をたてて病室の引き戸を開け、板張りの通路をぎゅっぎゅと踏み鳴らしながら進む。
やがて見えてきたバスルームの白いプレートをくぐり、壁にかかる鏡をじっと見た。
裏に銀メッキの施されたガラスに映るその男は、焦げ茶色の短い癖毛に二重の瞼。それを少し目尻の垂れた青い瞳でじっと見る。
もうかれこれ一ヶ月以上はこの顔でいるのだが、顔の中央にある横一閃の傷痕だけは、やはりどこか慣れなかった。
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