4.0.0 昏天

1/1
前へ
/149ページ
次へ

4.0.0 昏天

 土砂降りの雨が降り注ぎ、視界もままならぬ十一月の夜、鋭い痛みが前触れもなく俺を貫いた。 「あなたに花束を、そして甘美な死を」  アスファルトを叩きつける音ばかりが耳に飛び込んでくる中、どこからかそんなセリフも聞こえた気がした。  直後に襲い来る二度目、三度目の刺痛(しつう)。  俺はケモノを追っていたはずなのに、どうしてこんなことになったのだろうか。  体温が失われていく中で、相棒のことを思い出していた。  強く降っているはずの雨の、その色も重さも、そして音も最早(もはや)感じられない。 「スヴァン!」  女性の声が俺に呼びかける。 「しっかりして! スヴァン!」  それは俺の体を揺すり声を掛ける。  ケモノに夢中になりすぎて、いつの間にか相棒とすっかりはぐれていたのだ。 「グロリア……、泣くんじゃあない。かたき討ちは……任せた」  どうにか声を振り絞ったそのとき、焚き火のように暖かな感触がずるりと俺の中に入り込んでくる。  これが神に召されるということなのかと、多幸感に身を委ね、けれど、地の底から湧き上がるような暗い感情もまた、俺の体に纏わりついた。  どうか、どうか、俺を殺した奴が、惨めな死を迎えますように――
/149ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加