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（1）
「お腹が空きました。朝食を準備していただけるかしら？」
まだ朝の早い時間に、呼び鈴が鳴った。首を傾げつつ店の扉を開けると、気位の高そうな美少女がひとりでこちらを見上げている。
「申し訳ありませんが、ここは食事を提供する店ではないのです」
「私が、お腹が空いたと話しているのですよ？」
俺の言葉に、少女は不思議そうに頬に手をあてた。彼女は、命令することに慣れきった根っからのお嬢さまらしい。
「お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか。お屋敷の方に遣いを出しましょう」
「……それは、困ります。私家出をしてきているのです」
真面目に商売をしているだけなのに、どうしてこうも厄介事ばかりが飛び込んでくるのか。どうすべきか思案していると、背後から陽気な声が聞こえてきた。
「カルロ、こんな時間に珍しいわね。おやまあ、この娘っこは誰だい」
「ああ、この子は」
「私、お腹が空いたのですけれど、どんなにお願いしてもお食事を用意していただけないのです」
事実だが、大事な要素をいくつも削った状態で隣の店の女将に告げ口される。
「小さい子に食事抜きの罰を与えるのは感心しないね」
「誤解だ。そもそも彼女は俺と無関係で」
「子どもは教え導くもの。あんたは実の子どもでなければ、子どもが苦しんでいても知ったこっちゃないっていうのかい」
「そんなお人好しだと、尻の毛まで抜かれるぞ」
「カルロ！」
「はあ、わかった。この子に食事を与えて着替えさせる。それでいいだろう？」
慌てて女将に頭を下げる。彼女はこうと決めたら絶対に譲らない性格だ。このまま店の前で押し問答を続けていても仕方がない。これ以上この場にとどまっては、話がさらにややこしくなる。俺は見知らぬ少女の手を取り、大急ぎで店の中に戻った。
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