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「はあ、まったく朝食までに時間がかかりますこと。早く用意していただけるかしら?」 「一体どうしてこうなった?」  小さなご令嬢は勝手に奥のテーブルに我が物顔で陣取り、部屋の中を観察する少女。いきなり部屋を荒らすことはないだろうと放置することにして、急いで食事の準備をする。メニューはいつも通り、俺が実家で食べていたものが中心だ。王都から出たことのない彼女にとっては異質なものだろうが仕方がない。  どう見ても渋々といった状態で料理を口に運ぶ彼女だったが、一口食べるなり、大きく目を見開いた。みるみるうちに頬が薔薇色に染まっていく。 「初めて食べましたが、まあまあですわ!」 「故郷の料理でございます」  まあまあと評価されたが、料理を気に入ったらしいことは、一心不乱に食べている様子を見ればよくわかる。しばらく黙々と食べていた少女だったが、腹が満ちたのか満足げににこりと微笑んだ。やれやれ。 「ご満足いただけたようで何よりでございます」 「最初はどうなることかと思いましたが、これならばしばらく滞在しても、食事に困るということはなさそうです」 「……まるで、我が家での滞在が決定されたかのような言い方ですが?」 「ええ、そのつもりですが」  ふざけるのもいい加減にしろよ? 怒鳴りたくなるのを、ぐっと我慢する。高位のお貴族さまとのやりとりは厄介だ。彼らの気まぐれひとつで、自分たちの人生は左右されてしまうのだ。ため息をつきたくなるのを堪えていると、彼女がいいことを思いついたと言わんばかりに手を叩いた。 「ねえ、もっと気さくにお話ししてはくださらないの?」 「申し訳ありませんが、言葉遣いを後から咎められる恐れもございます。その命令は承諾いたしかねます」 「私が気にしなくてよいと言っているのです」 「口約束ほど形を変えやすいものはございません」  都合の良いように解釈したり、言葉尻をとらえて貶めたり。王都の貴族のやり方に慣れるまで、散々煮え湯を飲まされてきたのだ。警戒しすぎることはない。俺の言葉に彼女は意外そうに目を瞬かせた。 「わかりました。それならば、これでいかがかしら?」  ぐんと身体から魔力が引っ張りだされるのがわかった。相手の意志を確認することなく魔術を行使できるのは、魔力が非常に相性が良いか、魔力差が極端にあるときだけだ。彼女の実家候補がいくつか思い浮かんで、さらに胃が痛くなった。 「これであなたは、私をあなたの姪として扱っても問題ありませんわ」 「なるほど」 「ついでに私の実家について詮索しないこと、私に三食を与えることについても誓約として加えておきました。しばらくご厄介になりますわ、叔父さま」 「ふざけるなよ」  俺の嘆きに、少女は楽しそうに口角を上げるばかりだった。
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