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田中志郎は休日に暇だったので、近くの古本屋に行った。フリーターで金が無い志郎は、この古本屋で立ち読みをし、時間を潰すのが休日の定番だった。
店内に入り、漫画コーナーに向かう。その途中、棚からはみ出している本を見つけた。立ち止まって棚の上部を見ると、『占い』と書かれている。
綺麗に整列した本の中で、その本だけが5センチほど外にはみ出していた。背表紙のタイトルは『星占生術』。辞書のように分厚く、取り出すとずっしりと重い。頁数を確認すると、ちょうど1000頁もあった。
高そうだと思い裏表紙の値段を確認すると、『5000円(税別)』と書かれていた。
「高っ」と思わず呟く。
だが、それはあくまで定価。後から張られたラベルを見ると、『500円』と書かれている。
どんな人がこれを定価で買うんだろう。そう思いながら本の表紙を開いた。すると、一頁目の中心に、一文だけこう書かれていた。
『貴方はこの本と出会う運命だったのです。』
志郎はドキリとした。この本の著者に自分の運命を見透かされているような気がしたからだ。占いにはまったく興味が無いが、そんな自分が偶然この本を手に取った。考えてみると運命的な出会いだ。
これも何かの縁だと思い、この本を購入することにした。重いので立ち読みで済ませることもできない。
志郎は本を抱えてレジに向かった。会計を済ませて店を出る。自宅のボロアパートに帰ると、さっそく星占生術を開いた。
著者の橘敏夫によれば、人間は運勢ごとに七種類に分類できるらしく、その分類を地球以外の太陽系の惑星で示していた。占いをする場合、まず自分がどの星に分類されるのか調べなければならない。
志郎は名前や生年月日などの情報により、自分が土星に分類されることが分かった。土星に当てはまる人の人物評は、『落ち着きはあるが向上心が無く、現状に甘んじる傾向がある』とのことだった。
志郎は感心した。ぴしゃりと当たっている。たしかに自分には向上心というものが無い。だから大学に進学もせず、せっかく高卒で入れた会社も、一年足らずで辞めてしまったのだ。
たかが占いと馬鹿にできないかもしれない。志郎は期待を込めて頁をめくり、今日の運勢を調べることにした。
星占生術には1月1日から12月31日までの運勢が四年分書かれている。人の運勢は四年周期で巡るらしく、よって四年間の運勢さえ分かれば、一生の運勢が占えるのだという。
志郎は運勢の一覧表から今日の日付を探した。それによれば、土星の人の運勢は大吉だった。『良い出会いがある』と書かれている。
これも当たっていた。今日はこの本と出会うことができたのだから。
続きを読むと『外出前に手を二回叩くべし』と書かれていた。買い物の時に忘れずにしよう。そう思い、本を閉じた。星占生術にはその日の運勢と起こる出来事、それから簡単な助言が書かれているだけなので、それさえ見てしまえば他に見る所は無い。
「さてと」
志郎は一仕事終えた気分で呟き、最近ドハマりしているスマホゲーム、『ワンワンバトル』で遊ぶことにした。
一時間ほどプレイし、時計を見ると午後1時だった。
腹が空いたので、コンビニに行くことにした。玄関のドアを開けたところで占いを思い出し、二回手を叩いて外に出る。
コンビニに着くと、弁当とおまけ付きのガムを買った。おまけは『ワンワンバトル』のキャラクターが描かれたカードである。
家に帰り、弁当を食う前にガムの袋を開けると、なんと中には一番レアなシークレットカードが入っていた。
占いは本当に当たる。志郎はそう確信した。
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