運命の出会い

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 その日から、志郎は星占生術を毎日チェックし、その助言に従うことが習慣化した。  言いつけを守っていれば、凶の日でも特に悪い事は起こらず、吉以上の時には必ずいい出来事が起こった。それはスーパーに行くと好きな弁当に半額シールが貼られている、というようなささやかな幸運だったが、志郎にとっては充分に嬉しいサプライズだった。  こうして、占いのおかげで毎日が充実するようになった。  そんなある日、いつものように朝起きて本を開き、今日の運勢を調べると、志郎は頭を殴られるような衝撃を感じた。そこにはこう書かれていた。 『大吉。出世のために最大限奮起すること。今日を逃せば次の四年後まで出世の機会は訪れず、二十八歳を過ぎていれば手遅れとなり、この日の運勢は大吉から大凶へと転ずる。』  昨日までと違い、ずいぶん物々しいことが書かれている。現在、志郎は二十六歳なので、今日奮起しなければ手遅れになってしまう。  といっても、具体的に何をすればいいのだろうか。本には『家の窓を少し開けておくべし』という曖昧な助言しか書かれていない。  今のバイトは頑張っても出世できるシステムではないので、他のバイトに転職しろということだろうか。いや、最大限だから、さらにその上の正社員になることを目指すべきではないだろうか。  こんな自分を雇ってくれる会社などあるとは思えないが、占いの教えは絶対だ。  志郎は「よし、奮起するぞ」と呟いて立ち上がった。この日はバイトが休みだったので、朝食を平らげると、善は急げとハローワークに向かった。外出の際、窓を少し開けておくのも忘れなかった。  ハローワークは最寄駅から徒歩5分の場所にある。今まで利用したことがなかったので、緊張しながら中に入った。 「あなたを正社員として雇う会社なんてありません」と突っぱねられないか心配だったが、窓口の職員に相談すると、良さそうな会社を紹介してもらえた。チョコレートの卸売業者で、加藤菓子株式会社という名前だった。従業員数三十五人の小さな会社で、洋菓子店にチョコを卸す仕事をしているらしい。隣町にあり、自宅から充分通える距離だ。  また、雇用条件は初任給が十八万円で、完全週休二日制だった。土日休みは有り難いと思い、採用面接を申し込むことにした。面接の日取りは四日後に決まった。
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