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しかし、そんな志郎に危機が訪れた。入社してから二ヶ月が経過した日の朝、志郎は重たい瞼を開け、なんとかだるい体を起こした。昨日は佐々木店長と遅くまで飲んでいたので、寝不足だった。時計を見ると、出勤時間ぎりぎりである。
志郎は急いでスーツに着替えると、占いのチェックをせずに家を飛び出した。ただ、星占生術は鞄に入れ、電車の中で読むことにした。
なんとか間に合い、電車に乗り込む。席に座り、星占生術を開いて今日の運勢を確認すると、大凶だった。『家の外に出ぬこと。自宅トイレのドアを少し開けておくべし。』と書かれている。もうすべてが手遅れだった。外に出てしまったし、家に戻る時間も無い。
憂鬱な気持ちで車窓の景色を眺めていると、駅に到着し、電車が停まった。
電車から出ようと立ち上がった瞬間、突然、知らない男が膝に乗せていた鞄を引ったくり、電車を降りていった。中には星占生術が入っている。
「待て!」
志郎もすぐさま電車を降りて男を追いかけた。だが、寝不足のせいで吐き気に襲われ、走り続けることができなかった。
男は鞄を地面に捨てて走り去っていく。
志郎は追いかけるのを諦め、ふらつきながら歩いて鞄を拾い上げた。妙に軽い。嫌な予感がして中を見ると、星占生術が無かった。財布はあるので、どうやら男の狙いは金ではなく、星占生術だったようだ。あの本は自分が思っているよりも貴重な物らしい。
志郎は大凶を噛みしめながら出社した。
その後、仕事は無事に終り、帰宅後は星占生術を探すことにした。
警察に通報したところで、500円の古本一冊を真剣に探してくれるとは思えない。それなら代わりの本を自分で探した方が手っ取り早い。
志郎はネットの通販サイトで星占生術が売りに出されていないか調べた。しかし、どこにも売られていなかった。一昔前の本だから新品は売られていないし、古本であっても手放す人間はそういないのだろう。古本屋で見つけられたのは相当幸運だったということだ。
近くの図書館にも行ってみたが、星占生術は置いていなかった。
こうなれば、他の占い本で代用するしかない。もしかしたら最新の占い本の方が当たる可能性だってある。
志郎は家を出て本屋に行き、新刊の占い本を十冊買い込んだ。さっそく持ち帰って読んでみる。だが、今日の運勢を調べると、どれも良い運勢ばかりだった。どう考えても大凶なのに。
星占生術の代わりはそう簡単に見つからないらしい。志郎は大きな失意を抱えて眠りについた。
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