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「いよいよ明日、このエンジェルランドはオープンを迎えます。皆、本当に今までありがとう。よくついてきてくれた」
興奮した様子の博士とは逆に、俺たち助手の表情は皆暗かった。
大昔、天使たちが住んでいた天空の島が島ごと地上に落下した。
大地に叩きつけられ島に押し潰されてしまった天使たち。
そのまま海の底へと沈み、誰にも気付かれぬまま長い時を経て、突如海の真ん中に浮かび上がったかつての天空の島。
そこで見つかったのはすでに化石となってしまった無数の天使だった。
「恐竜も化石から復活させることができたのだ。天使だって必ず復活させることができる」
周りの反対を押しきり博士はこの島で天使の再生の研究に挑んだ。
結果『ジェラシックパーク』ならぬ、再生させた天使たちを見ることができる施設『エンジェルランド』を作ってしまったのだ。
緑豊かな大地、美しく咲く色とりどりの花。
太陽の光を受け輝く湖に、のんびりと暮らす野生の動物たち。
そしてそれらを見下ろしながら優雅に宙を漂う愛らしい天使たち。
エンジェルランドはまるで天国かと思うほど美しい巨大なドームだった。
「明日からこの子たちを見に大勢の人間が訪れる。皆、よろしく頼むよ」
ドームの中の天使をガラス越しに見つめながら博士は言った。
「博士、今ならまだ間に合います! こんなことやめませんか? 神に反しています!」
「そうですよ博士! 天使は恐竜とは違うのです! 天使がどういう生き物で何を考えているのかなんてまだ誰にもわかっていません!」
天使の生態はあくまでも物語の中の想像にすぎない。
そんな得体のしれないモノを実際に再生して、さらに人間を近づけてもいいものなのか。
「何も心配いらん。私はずっとこのドームに入って間近で天使たちを見てきた。天使は人間の想像どおり、美しい生き物じゃよ」
確かに博士は唯一ドームの中に入って天使たちの世話をしてきた。
「博士」
天使に魅了された博士が助手たちの反対に耳を傾けることはなかった。
そしていよいよエンジェルランドはオープンした。
次々とやってくる旅客船。
あっという間にドームの中は人で埋め尽くされた。
「見てみろ、人間のあの楽しそうな笑顔を」
ガラス越しに中の様子を見ていた博士が満足気な顔をしている。
確かに、初めて見る天使に皆釘付けだ。
まるで天国に来たかのように恍惚の表情をしている。
「そうだ、ここは天国なんじゃ。私が作った偽物の天国さ! ハッハッハ!」
博士がそう言った瞬間、ドームの中の人間が次々と倒れていった。
「え?」
静かに、ただ静かにその場に崩れるように倒れていった。
「ちょっ、博士! いったい何が起こって……」
俺たちは慌ててドームを封鎖するための緊急ボタンを押した。
「君たちは何故、天空の島が落下したか知っているか?」
「博士?」
博士の表情。
それは博士のようで博士ではないように見えた。
「我々は神に背いたのだ。神に背いた天使がどうなるかくらいは知っているだろう」
神に背いた天使とは。
「まさか、堕天使!?」
博士はにっこりと笑っていた。
「ハッハッハ、その通り! 我々は堕天使だ! 神に背き地上に落とされた悪魔なのさ!」
博士はそう言うと突然走り出しドームの屋根の開閉レバーを引いた。
「博士! 何を!?」
みるみるうちにドームの屋根は開き、そこから勢いよく外へと飛び出していく天使、いや、堕天使たち。
「この男の欲のおかげでオレたちは甦った。礼を言うぞ」
博士は自分の胸に手を当てていた。
「博士? いや、あなたは博士じゃない!」
「これから人間の欲を思う存分味わわせてもらおう」
不気味な笑みを見せている博士の背中から、真っ黒でとてつもなく大きな羽根が現れた。
かと思うと博士の体の中から現れた黒い大きな堕天使がすごいスピードで空へと飛び立った。
「博士!?」
急いで駆け寄ったが、その場に倒れてしまった博士の体が動くことはなかった。
思えばドームの中に入って天使に近づいたのは博士だけだった。
そう考えるとおそらくもうずいぶんと前から博士の体には堕天使が住みついていたのかもしれない。
「おい、どうするんだよ」
俺たちはもぬけの殻になったドームを呆然とただ眺めているだけだった。
この世界に無数の悪魔を解き放ってしまったのだ。
限りない人間の欲を、すなわち命を奪おうとする悪魔。
悪魔と人間の戦いが今まさに始まろうとしている。
「考えろ。どうすれば」
悪魔を止められるのは、そうだ、あの人しかいない。
俺は亡き骸になった博士の白衣のポケットをあさった。
そこから鍵の束を取り出した。
皆も何かしら気づいた様子だ。
博士が昔言っていたのを思い出したのだ。
どこかの国で見つけた『神の涙の化石』を持っていると。
俺たちはずっと博士の研究を見てきた。
再生の手順はわかっている。
ほんの少しでいい。
ほんの少しのサンプルさえ採取できれば天使と同じように神をも再生できるのではないのか。
俺ならば、俺たちのチームならば……。
「やるしかない」
皆で顔を合わせ無言で頷いた。
俺たちは博士の研究室に入ると必死で神の化石を探し始めた。
完
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